1日100食、部員支える喫茶店 マスターは親代わり

佐藤瑞季
[PR]

 特大どんぶりに盛られた白ごはん。県岐阜商の野球部員が一斉に食べ始める。1人1キロ以上で、おかわりし放題だ。

 「ちゃんと食べてる?」

 「調子はどう?」

 6月下旬、下宿生ら31人が夕食をとる様子を見ながら、岐阜市の喫茶店「ベルエポック」で、マスターの鹿島靖夫さん(46)が声をかけていた。

 現3年生が入部した2年半前から下宿生に食事をつくり始めた。きっかけは、県岐阜商OBの鹿島さんがかつての同級生から「息子を野球部に入れるんだけど、食事が心配」と相談されたことだ。鍛治舎巧監督(70)が常連客だったこともあり、話はトントン拍子で進んだ。

 午前4時に起き、朝食と昼の弁当の準備をする。午前8時から正午までの営業を終えると仕込みをして、買い出しに向かう。夕方、学校に空っぽになった弁当箱を取りに行き、戻って夕食をつくり始める。下宿生らに夕食を食べさせて片づけを終え、家に帰ると午前0時近くになる。

 「温かくてバランスよいもの」を意識し、毎日1人で100食を調理する。人気メニューは、しょうが焼きと唐揚げだ。1食約500円という予算の枠内でやりくりし、野菜は毎食必ず取り入れる。食事を心配する親を安心させるため、インスタグラムに毎日3食の写真を投稿している。

 体重が増えた。背中が大きくなった。胸に厚みが出てきた――。部員のそんな変化を一緒に喜ぶ。食べる量が減っていたり、表情がさえなかったりする部員には、すぐに声をかける。「毎日顔を合わせ、息子より長い時間を過ごしている。顔を見ればすぐ、調子が分かりますよ」

 ときには部員たちを叱ることもある。「あいさつを忘れるな」「食事中に携帯を触らない」「ダラダラしない」。日常生活が乱れると、プレーにも影響すると思うからだ。「社会で身につけるべきことは親代わりとして教えたい」

 エースで副主将の野崎慎裕君(3年)は野球と体づくりに専念するため、大垣市内の実家を出て、岐阜市内に住む。ベルエポックで食事をとるようになり、2年間で体重が10キロ増えた。お気に入りはカレーライスで、いつも実家の味を思い出す。「おにぎりや白ごはんを補食として持たせてもらい、いつも支えてもらっています」

 下呂市出身の小林希君(1年)は「練習はつらい。ここでのごはんが一日の楽しみです」。朝食後に「いってらっしゃい」と送り出してもらうのがうれしい。「やさしく、厳しく見守ってもらっています」という。

 鹿島さんは下宿生らに食事をつくり始めるまで、野球のルールすら知らなかった。毎年、部員とは「決勝は見に行く」と約束している。

 「だから絶対決勝まで行ってもらわないと。朝早くから夜遅くまで練習しているんだから、甲子園に行って当たり前。それが僕へのご褒美です」(佐藤瑞季)