VR美術展 現実以上!? 3D空間に作品展示

湯川うらら
【動画】VR(仮想現実)を使い、美術館にいるような臨場感と絵画鑑賞を楽しめる「VR美術館」
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 家から出なくても、個展に行ける? コロナ禍で、実際に美術館や個展に足を運ぶ機会が減る中、VR(仮想現実)システムを使って展示会場にいるような臨場感と絵画鑑賞を楽しめる「VR美術個展」を、香川にゆかりのある画家とエンジニアがオンライン上に開設した。

 VR個展に並ぶのは大阪市の画家・植村友哉さん(31)=香川県さぬき市出身=の作品だ。米国発の大手ソーシャルVRプラットフォーム「VRChat」(VRチャット)に今年2月、「WESON MUSEUM」を開設。植村さんのあだ名「うえそん」をもじった。

 VRシステムでは、専用ゴーグルを装着すると、眼前に上下左右360度の仮想の3D空間が出現し、まるで自分がその中にいるように感じられる。顔を動かした方向に、空間内での視点も移動する。今回のVR個展には、雲の上や森の中といった仮想空間にアクリル画など約50点が並ぶ。

 VR機器さえあれば、自宅でも本格的なアートを楽しめると評判で、来館者数は累計1800人を超えている。

 記者も体験してみた。まず、空間や絵画の大きさに驚く。壁には水滴や花、人物などのアクリル画が並び、天井付近ではマンタが悠々と泳いでいる。手に持ったコントローラーの操作で、会場を歩いたり、絵画に近づいたりもできる。

 ゆったりとした音楽が流れる中、気になる作品に至近距離まで迫る。解像度には限界があるものの、絵の立体感や透明感を味わうには十分だった。

 最初はVR機器の扱いに少し戸惑ったが、慣れるにつれ現実世界と区別がつかなくなった。「秘密のアトリエ」につながる隠し扉があったり、ジャンプの操作をしないと進めないといったゲーム要素があったりするのも面白い。時間が経つのを忘れ、アートの世界に浸った。

 植村さんは、青山学院大卒業後、食品メーカーの営業を経て2014年に画家に転身。旅行で訪れた西太平洋の島国パラオの雄大な自然に魅せられ、その風景やマンタなどの動物を中心に描いてきた。

 アートを通じてパラオとの交流を深めたいと思っていたが、新型コロナウイルスの影響で、予定していた個展が中止になるなど、国内外での作品発表の機会が激減。コロナ禍前からオンライン上で交流できるVRに興味があったが、自身にはその技術がなかった。

 そんななか昨年末、友人の紹介でVRエンジニアの斉藤大将さん(28)=高松市在住(当時)=と出会った。斉藤さんは「新型コロナで作品を見てもらう機会が減ったアーティストの力になれるかもしれない」と協力を申し出た。

 「せっかくなら、VRにしかできない美術館にしよう」と、斉藤さんは森の中や雲の上、雨が降る中で鑑賞するなど、現実では不可能な演出を考えた。販売済みで今は手元にない作品や制作途中のスケッチも、残していた写真やスキャンデータを使ってよみがえらせた。

 2人は原則土曜の午後9~10時にVR個展に在廊し、自身を模したキャラクター「アバター」を介して来館者たちと会話を楽しむ。実際の展覧会とは違い、好きなだけおしゃべりできるのも、VR個展ならではの光景だ。VRチャットのユーザーの国籍や職種は様々。普段美術展に行く習慣がないという人も多いという。

 体験した人のツイッターでは「VRでないと、まず絵画や美術に触れることがなかった」「画家の話を直接聞きながら鑑賞できて、ぜいたくな時間」「雨の中で絵画を鑑賞するというのは、現実ではできないので面白い」などと声が上がり、好評だという。

 オンラインでの出会いは、オフラインにも影響を与えた。今年5月に開かれた東京の展覧会に、VR個展の常連客が足を運んでくれた。「私は会場にはいなくて、まだ実際に会ったことはないんです。リアルとバーチャルがつながり、こういう形で自分の活動が広がるのは、うれしいですね」と、植村さんは顔をほころばせる。

 今夏にはVR上により大規模な個展を開くための準備を進めている。パラオをテーマにした空間を設け、パラオの学生や他のアーティストの作品の展示も考えている。将来的には、ほかのアーティストに向けてVRの活用法を発信していきたいという。

 植村さんは「デジタルの展示方法があれば、若い方に限らず継続的に活動を発信できる。VR個展をどんどん広げていきたい」。斉藤さんは「展示スペースを借りないので低コストで実現でき、アーティストのチャンスも広がる。アートは高尚な趣味だと思われがちだが、興味を持つきっかけになれば」と話す。

 VR個展に入るにはVRチャット(https://hello.vrchat.com別ウインドウで開きます)の登録が必要。VRチャット内の検索窓で「WESON_MUSEUM」と入力する。VRゴーグルが無くても、パソコンの画面上でも楽しめる。斉藤さんらVRクリエーターの活動を紹介するホームページ(https://www.nurumayulabs.com/別ウインドウで開きます)もある。(湯川うらら)

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