記者逮捕 北海道新聞が検証記事「記者教育など問題」

本田大次郎
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 国立の旭川医科大学(北海道旭川市)で、学長解任問題を取材中の北海道新聞社の20代の記者が建造物侵入容疑で大学職員に現行犯逮捕された事件について、同社は7日付朝刊に社内調査結果を掲載した。新人記者を単独で校舎内に立ち入らせたことや、記者がスマートフォンで学内会議の模様を無断録音したことなどを挙げ、情報共有や取材手法、記者教育に問題があったとした。

 旭川医大では昨年12月以降、吉田晃敏学長の新型コロナウイルス患者受け入れを巡る対応などで不祥事が噴出。年明け以降の学長選考会議で処分が議論されていた。事件があった6月22日午後には、学長選考会議で学長の解任申し出が議論される見通しとなっており、大学には多くの報道陣が詰めかけていた。

 北海道新聞の紙面での説明によると、この日は同社旭川支社報道部のキャップら記者4人が、大学敷地内で取材。逮捕された記者は入社1年目の新人で、この問題の取材は初めてだった。

 選考会議は22日午後3時に始まり、旭川医大は午後3時50分、報道各社にファクスで、コロナ対策で構内への立ち入りを禁止し、会議後の午後6時に取材に応じると連絡した。旭川支社報道部は現場の記者3人にこれをメールで伝えたが、この新人記者については現場にいるとは把握しておらず、伝えなかった。

 午後4時ごろ、キャップは記者に校舎2階での取材を指示した。キャップは大学の文書にあった入構禁止の要請を見逃しており、「これまでも入構禁止だったが、慣例的に立ち入っていたため入らせた」「経験を積ませたかった」と説明したという。記者はその後、選考会議があった4階へ向かうよう指示されたが、誰が指示したかは不明という。

 4階に行った記者は、会議室ドアの隙間にスマホを近づけて会議内容を録音。同社は取材での無断録音を原則認めていないが、先輩の体験談から記者は自分の判断で行ったという。

 記者は、出てきた職員にすぐに見つかり、身分を明かさずに後ずさりするような行動をして、職員に取り押さえられた(常人逮捕)。社名などを明かしたのは警察官が駆けつけた後だった。記者はキャップや別の記者から、校舎内で身分を聞かれた際は、はぐらかすよう言われていたという。

 記者は職員から北海道警旭川東署に引き渡された後、2日後の6月24日に釈放された。在宅で捜査が続けられている。

 北海道新聞はこうした経緯から、情報共有や取材手法、記者教育で問題点があったとした。

 旭川医大では事件の前週の6月18日、選考会議の取材のため北海道新聞を含む報道各社が校舎4階に入り、大学事務局に抗議されるトラブルがあった。この問題は社内で十分に共有されず、逮捕された記者は知らなかった。

 北海道新聞は、記者への的確な指示がなく、単独で校舎内に立ち入らせた点は問題だったとした。無断録音についても指導が徹底されておらず、職員に見つかった際もすぐに身分や取材目的を明かすべきだったとした。取材方法を指導する旭川支社報道部の部次長らの関与も不十分だとした。

 この社内報告は、7日付北海道新聞の第2社会面の約半分のスペースを使って掲載された。北海道新聞社法務広報グループは朝日新聞の取材に対し、「記者会見を開く予定はない。この記事をもって説明責任を果たす」とした。(本田大次郎)

小林亨・北海道新聞編集局長のコメント

 新聞社は憲法で保障された表現の自由を守り、国民の「知る権利」に奉仕することが責務。旭川医大の問題で北海道新聞は全力で取材に当たってきた。

 旭川医大の取材対応は十分とは言い難く、さまざまな取材手法を駆使してきた。こうした中で記者が常人逮捕されるという事態が生じたことは遺憾と言わざるを得ない。

 ただ、記者が逮捕された状況を検証する限り、反省すべき点もあり、取材部門を統括する責任者としてこの事態を招いたことを重く受け止める。記者教育や組織運営のあり方などを早急に見直し、再発防止に努める。

 北海道新聞社は今回の事件にひるむことなく、国民の「知る権利」のために尽くしていく。

北海道新聞社が紙面で説明した問題の概要

【事実経過】

・6月22日の旭川医大学長選考会議の取材記者は現場キャップら4人(逮捕された新人記者1人を含む)。会議は午後3時から開かれ、会議後の取材のため大学敷地内で他の報道各社と待機

・午後3時50分ごろに旭川医大が報道各社に文書をファクス。文書では会議後の午後6時に取材に応じるとし、新型コロナウイルス対策で構内立ち入りを禁止しているとも記載

北海道新聞の旭川支社報道部は旭川医大からの文書を現場取材記者4人のうち3人にメール。逮捕された記者については、現場にいることは把握しておらず、メール送信せず

・午後4時ごろ、キャップがこの記者に対し、校舎内に入って2階廊下で選考会議出席者を待つよう指示。キャップは大学側文書の「構内立ち入り禁止」を見落としており、「これまでも入構禁止になっていたが、慣例的に自由に立ち入って取材していたため、入らせた」と説明

・午後4時25分ごろ、この記者は選考会議が行われている可能性がある4階に向かうよう指示を受ける。これが誰の指示だったかは不明

・この記者は選考会議が行われているとみられる部屋のドアの隙間にスマートフォンを近づけて録音。数分後に大学職員に見つかり、取り押さえられる。その後北海道警旭川東署に引き渡される

・記者は職員から身分を聞かれたが、あいまいな返答を繰り返した。社の名刺や腕章を示したのは通報で警察官が駆けつけた後だった

【問題点】

・旭川医大の取材を巡っては、大学側の取材対応について、18日に報道各社が校舎4階で事務局とトラブルになっていた。この情報が社内で共有されておらず、逮捕された記者も知らなかった

・逮捕された記者が旭川医大問題を取材したのは、事件があった22日が初めて。キャップは「経験を積ませたかった」と校舎内に入るよう指示した。新人記者を単独で校舎内に立ち入って取材させたのは問題があった

・的確な指示がなく、この記者は先輩記者の体験談をもとに、自分の判断で会議内容をスマホで無断録音した。社内の「記者の指針」では「無断録音は原則しない」と定めているが、指導が徹底されていなかった

・大学職員に見つかった際もすぐに記者と名乗り、取材目的だと告げるべきだったが、動揺していたこともありできなかった。キャップや別の記者からは、校舎内で身分を聞かれてもはぐらかすよう言われていた

・一連の経過から、旭川支社の報道部長や次長の関与が不十分だった