2019年10月、各地を襲った台風19号。土砂崩れが起き、田んぼや家屋が大きな被害を受けた神奈川県相模原市の山間部で、2年ぶりに田植えが行われた。被災前はモチ米を作っていた田んぼに作付けされたのは酒米。願うのは、地域の活性化だ。
水が張られた水田の向こうに、崩れた斜面や真新しい土留めが見える。山梨県境に近い相模原市緑区の青根地区。6月にタウン紙などでの募集に応じた親子連れら約50人が参加して田植えをした。
「もうなるようにしかならないと思っていたけど、こんな盛り上がり方もあるんだね」
農家の高足宜男(よしお)さん(85)は、こう言って顔をほころばせた。
高足さんの水田は20アール。集落で代々、コメを作ってきた。10年ほど前には田んぼの一部をモチ米の栽培に切り替え、加工する機械や冷蔵庫も導入した。
だが台風19号が直撃し、自宅近くの斜面が崩落。祖父の代から守ってきた築約100年の母屋や水田に、大量の土砂や木々が押し寄せた。高足さんと妻は近くの中学校に避難して無事だったが、翌朝自宅を訪れ、「ただただ、ぼうぜんとした」と言う。
一帯は激甚災害指定を受け、国と市の費用で復興工事が進められた。だが、迷った。モチ米の栽培を再開しても、加工にはまた機械なども購入しなければならないからだ。
そんなときのこと。「酒米栽培に水田を貸してもらえないか」と同じ緑区内で養鶏を営む石井好一さん(72)から提案があった。
石井さんは地域の在来種の大…