ロック・イン・ジャパン・フェス開催断念 中止要請受け

定塚遼
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 8月に茨城県で開催を予定していた国内最大級の野外音楽フェス「ロック・イン・ジャパン・フェスティバル」を中止すると、同フェス事務局が7日、発表した。中止は2年連続。新型コロナ禍の中で、同県医師会などが中止・延期の検討を要請したことを受け、開催を断念したという。

 同県ひたちなか市国営ひたち海浜公園で8月7~9、14、15日に開催を予定しており、あいみょん、King Gnu、YOASOBI、エレファントカシマシ宮本浩次らの出演が決まっていた。感染対策として、定員を例年の半数以下とした上で、通常の7ステージから1ステージに減らし、開催する予定だった。

 2000年にスタートした同フェスは、フジロック・フェスティバル、サマーソニック(今年はスーパーソニック)と並ぶ夏の「3大ロックフェス」の一つとして知られ、19年は過去最大となる33万7千人を動員した。

 主催するロッキング・オン・ジャパン社は、5月に千葉市で4日間のロックフェス「ジャパン・ジャム」を開催し、終演約3週間後に、クラスターが発生しなかったと発表した。夏のフェスに向けた前哨戦と位置づけられるこのフェスでの感染対策に一定の手応えを感じ、「ロック・イン・ジャパン・フェス」の開催に向けた準備を進めていた。

 そんな中、今月2日に、茨城県医師会と県内26の医師会などによる中止要請が事務局に対してなされた。

 要請には、今後の感染拡大状況に応じて、開催の中止または延期を検討することや、仮に開催する場合であっても、更なる入場制限措置などを講じ、参加者の会場外での行動を含む感染防止対策に万全を期すこと、といった内容が明記されていた。これらの要請を検討した結果、開催の断念を決めたという。

 総合プロデューサーを務める渋谷陽一氏は「コロナ禍にあって医療関係の方の協力と理解は絶対に必要なものです。それを得る為には私たちは努力しますが、これまで書いてきたように、医師会からの要請に十全に応えることは今の私たちにはできません。残念ですが中止以外の選択肢はありませんでした」「中止は残念というか、無念としか言えません。楽しみにしていた参加者の方には本当に申し訳ありません」とコメントしている。(定塚遼)

無念。しかし他の選択肢はありませんでした 総合プロデューサー・渋谷陽一氏のコメント全文

 8月に茨城県で開催を予定していた国内最大級の野外音楽フェス「ロック・イン・ジャパン・フェスティバル」の中止が発表された。政府のガイドラインや自治体との調整を続けながら開催を模索してきたが、茨城県医師会などの要請を受け、中止を決断した。苦渋の決断の背景を語った総合プロデューサー・渋谷陽一氏のコメントは以下の通り

 「ロック・イン・ジャパン・フェスティバル 2021」の開催を中止いたします。私たちは、コロナ禍に於(お)ける安全なフェス実現の為(ため)に1年以上の長い時間をかけて開催スキームを検討してきました。そして、会場である国営ひたち海浜公園、地元自治体の茨城県ひたちなか市と協議を重ねて開催の承認をいただき、券売を始めています。すでにソールド・アウトした日も出ています。そうしたなかでの中止は残念というか、無念としか言えません。しかし私たちに他の選択肢はありませんでした。楽しみにしていた参加者の方には本当に申し訳ありません。ご理解いただければと思います。

 7月2日(金)に、茨城県医師会の代表の方がフェス主催者である茨城放送の本社に来られました。そこでフェスに対する要望書を茨城放送の代表に手渡され、受け取ったところを写真に撮っていかれました。その要望書には、このコロナ禍にあってフェス開催に懸念と危機感を持たれていると書かれていました。その認識を踏まえて、ふたつの要請が私たちに出されました。

 ひとつ目は「今後の感染拡大状況に応じて、開催の中止または延期を検討すること」でした。開催1ケ月前になり、フェスの準備の多くは既に進んでいます。グッズの制作、スタッフの確保、宿泊の手配、関連映像の制作、装飾物のデザイン・制作などです。今、中止を決定しても億以上の支出になります。それは日に日に何千万円の単位で増えていき、最終的には大変大きなものになります。参加アーティストは40いますが、このフェスの為のみのグッズ制作、リハーサル、スタッフの確保、サポートメンバーの確保、映像制作がそれぞれ進んでいます。トータルに考えると巨額な経費が既に使われ、このまま進むとそれはより膨らんでいきます。私たちはこうしたことを踏まえ開催を判断していかなければなりません。「感染拡大状況に応じて、開催の中止や延期」という要請が出ている中で、これ以上判断を先に延ばすことは余りにもリスクが大き過ぎます。

 また、「感染拡大状況に応じて」と書かれていますが、その解釈は余りに多様で基準が曖昧(あいまい)です。何をもって感染拡大とするのか、それに基づく中止や延期の基準となるものは何かは明示されておりません。感染者数なのか、死亡者の数なのか、病床の使用率なのか、あるいは緊急事態宣言の発令なのか、私たちには分かりません。それでは私たちは対応ができません。その状況で判断を先延ばしにすることはできません。

 ふたつ目は「仮に開催する場合であっても、更なる入場制限措置等を講ずるとともに、観客の会場外での行動を含む感染防止対策に万全を期すこと」となっています。既にチケットは発売され、売り切れとなった日も出て万に近い落選者も出てきています。この段階で新たな入場制限は不可能です。もし再抽選となれば参加者との信頼関係は失われてしまいます。そうしたことは私たちはすべきではないと考えています。また時間的にも再抽選に現実性はありません。

 「観客の会場外での行動を含む感染防止対策」ですが、これも余りにも多様な解釈が可能で、もし文字通りの解釈をするならば、フェスに参加した方の会場外の全ての行動に対して、私たちは感染対策を行わなければなりません。それは不可能です。きっとそうではないのでしょうが、「会場外での行動」が何を示しているのか細部を議論する時間的余裕は、これまで書かせていただいたように私たちにはありません。私たちが1年以上かけて議論、検討してきた感染対策は、ステージ・フロントにおける参加者の距離、飲食エリアでの着席のルールなど、何千という運営細部に関するものです。私たちは感染対策の本質は細部に宿るものと考えてたくさんの時間と知恵を使ってきました。このタイミングに至っての「感染防止対策に万全を期すること」という包括的な要請に、何を以(もっ)て万全とするのか、どのような新たな対策を提示すれば良いのか、残された時間の少なさを前に途方に暮れてしまいました。フェスにとって地元の協力と理解は何より大切なことです。まして、このコロナ禍にあって医療関係の方の協力と理解は絶対に必要なものです。それを得る為には私たちは努力しますが、これまで書いてきたように、医師会からの要請に十全に応えることは今の私たちにはできません。残念ですが中止以外の選択肢はありませんでした。

 現在、たくさんの夏フェスが計画されています。全ての成功を祈っています。ですから、私たちの開催中止が他の夏フェスへの悪い影響を生まなければいいと切に願っています。その為にも最後まで開催を目指して頑張りたかったですが、ここで断念せざるを得ませんでした。悔しいですし、申し訳なく思います。

 音楽を止めるな、フェスを止めるな、という思いでたくさんの仲間が頑張っています。それは参加者の皆さんも一緒です。その強い思いが春のジャパン・ジャムの成功を支えたのだと思います。ジャパン・ジャムの会場でたくさんの方から「夏は絶対に開催してくださいね」と声をかけていただきました。「大丈夫、絶対に開催するから」と答えました。百パーセント、そう思っていました。ジャパン・ジャムの成功が夏開催への道筋をひらくものと信じていたので本当に残念です。無念です。

 フェス開催1ケ月前という、ほぼスキーム変更が困難なタイミングでの要請であった為に、私たちにできることはほとんどありませんでした。政府のガイドライン、茨城県ひたちなか市による協力要請を遵守(じゅんしゅ)し、会場や県、市の皆さんと密な協議を重ねて開催の承認をいただいてきたのですが、医師会の方の危機感はそれを超えて大きく重かったということで、しっかり受け止めさせていただくしかありません。要望書が提出された翌週の7月5日(月)、茨城県医師会のホームページに、提出時の写真と要望書の内容がアップされていました。何故(なぜ)か数時間で消えていましたが、多くの方が情報共有できるように再掲載いただけたらと思います。

 「ロック・イン・ジャパン 2021」の開催は中止になってしまいましたが、各地で夏フェスは開催されます。絶対に成功してほしいです。音楽を止めない、フェスを止めない、という思いは多くの音楽ファンが持つ共通の思いです。コロナ禍にあって障害はありますが、あの祝祭空間を私たちは守っていかなければなりません。そんな思いでこの文章も書かせていただいています。いつも最前線で戦い、状況を切り開く覚悟で頑張ってきましたが、今回は思いはかないませんでした。「ロック・イン・ジャパン 2021」にむかうアーティストの気持ち、フェスを楽しみにしている参加者の思い、それを考えると何とも言えない気持ちになります。悔しいです。申し訳ありません。でも私たちはこれからも最高のフェスを作り続けます。今回のことで、その思いはより強くなりました。繰り返しになりますが、これから開催される夏フェスの成功を強く願い、応援したいと思います。