3年生4人だけの野球部 春には初勝利、夢とは違っても

福岡龍一郎
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 3月下旬、新学期が始まる直前だった。庄内総合(山形)3年のエース進藤朱希也(ときや、18)は、監督の言葉にがくぜんとした。他のチームメートも口々に「えっ?」「マジっすか?」と戸惑いの声をあげる。

 監督の星健太(27)は少し硬い表情で明かした。

 「野球をしていた新入生は、いないらしい」

 前の年の新入部員はゼロ。この春、誰も入ってこなければ、自分たち3年生4人だけになってしまう。絶対に野球経験のある1年生を入れよう。そう決めていたのに、出ばなをくじかれた。

 結局、4月になっても入部希望者は現れなかった。この時点で、夏での休部が決まった。まだ最後の大会が残っているのに。

     ◇

 野球を始めたのは小学2年のころ。四つ上の兄の康佑(こうすけ、21)が庄内総合に進み、エースとして最後の夏に14奪三振と活躍。その力投に憧れ、ユニホームや帽子をもらって後を追った。

 入部したのは自分を入れて4人。ほかに2年生4人、3年生2人。人見知りだったけど、同期がよく話しかけてくれた。

 フランクなのが本間大地(18)。グラウンド整備が丁寧で、意外と繊細。岡部太陽(17)は口を開けば冗談ばかり。練習をサボるけど、なぜか試合で結果を残す。シャイなところが似ている武田夏輝(18)は、三振すると地団太を踏む。

 みんな良いやつらで「野球部に入って良かった」と思えた。公式戦では1勝もできなかったけど、「3年の夏に後輩とマウンドで喜べたらいいな」と夢見た。

 新型コロナが邪魔したのだろうか。昨年の春は休校になり、勧誘どころか部活も中止。妹のあさひ(16)がマネジャーとして入ってくれただけだった。

 昨夏の大会後、引退する先輩は「春までお前らだけ。腐らずがんばれよ」と励ましてくれた。

 いざ4人だけになると、内野ががら空きで寒々しかった。球拾いをする人手がないから、ティーバッティングや実戦を想定したゴロの繰り返し。休日は他校の練習に参加した。打撃練習や守備の連係プレーを見ると、うらやましくなったけど、「4人だと大変だね」と言われると、ちょっとむっとなった。

 豪雪の冬から雪解けの春まで、毎日3人と練習した。一緒に過ごすのが楽しくて、苦にならなかった。

 休部が決まった今春から、さらにのめり込んだ。帰宅後もシャドーピッチングをし、動画でフォームを研究。「家族みたいなあいつらを勝たせてやりたい」と思うようになった。

 5月10日、鶴岡中央との連合チームで臨んだ春の地区予選。課題だったストレートは後半も伸びた。8―6。公式戦の初勝利になった。

 整列したとき、みんなぽかんとしていたけど、片付けの時に誰かが「勝ったんだよな」とつぶやいた。以前に思い描いたような、後輩たちと喜びを分かち合う光景ではなかったけども、鶴岡中央に交じってはにかむ3人の笑顔があった。

 その後、大学の野球部から誘いが来てびっくりした。春大会を見て興味を持ったらしい。建築士になりたくて短期大学に行くつもりだったから迷った。

 プロも試合する明治神宮球場(東京)に立つのを想像するとワクワクする。でも、チームは50人以上だし、練習はずっと厳しいだろうし。今とはまったく違う野球をやるのかと思うと不安でたまらない。

 1カ月くらい悩んでいたら、本間が教室に飛び込んできた。「夏の組み合わせが決まったぞ!」

 初戦は7月8日の開幕初日。大学のことを考えるのはひとまずやめだ。

 授業が終わってスパイクのひもを結ぶ。4人だけの野球部も、もう終わり。あと何日できるんだろう。3人が待つグラウンドに向かう。

 それでもやっぱり本当は、夏が来なければいいのになと思う。

=敬称略(福岡龍一郎)