投球練習なのに打席に4番 智弁和歌山、苦肉の調整方法

山口裕起、山口史朗
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 第103回全国高校野球選手権大会の地方大会が本格化する。2年ぶりに大会は復活したが、球児や指導者たちは今年も新型コロナウイルスの影響を受け、制約のなかでこの夏を迎えた。時に悩みながら、逆境に立ち向かうその姿を追った。

「三振や」「ホームランだな」

 4番とエースによる、バットを振ることのない“真剣勝負”だった。

 6月中旬、和歌山市智弁和歌山グラウンド。キャッチボールを終えた右腕の中西聖輝(まさき)(3年)がブルペンに入ってきた。

 高校通算42本塁打の徳丸天晴(3年)が右打席でバットを構える。ひじ当て、フットガードまでつけ、実戦さながらだ。

 最速147キロを誇る中西の一球一球に対し、タイミングを計りながら左足を踏み込む。

 「三振や」「ホームランだな」

 「いまのスライダーは?」「ちょっと曲がりが早い」

 約50球の“対決”は乏しい実戦機会を補うための苦肉の策でもある。

 新型コロナウイルスの影響により、真剣勝負の場が激減した。球児たちのプレーにどんな影響が考えられるのか。

 「対外試合が少なく、投手ももちろんだが、特に打者の調整が難しい」と中谷仁(じん)監督(42)。「打者は打席での反応が大事。それは実際に投手の球を打つことで磨かれるものだが、その経験がなかなかできていない」

 和歌山では不要不急の外出自粛を求めた県の方針で、4月中旬から5月まで対外試合は公式戦しか認められなかった。

 智弁和歌山は優勝した春季県大会で5試合、4強に進んだ近畿大会で2試合を戦ったものの、十分とは言えない。

 6月に入っても、大阪、兵庫などに緊急事態宣言が出ていた20日までは県内の高校同士の対戦に限られた。

 実現はしなかったものの、少しでも実戦機会を増やそうと、6月上旬にはライバルの市和歌山に練習試合を打診した。

 打席での経験を十分に積ませられなかっただけに、中谷監督は「いかにしっかり守れるかが鍵になる」と見る。

 主将の宮坂厚希(3年)も「打てなくても焦らない。投手を中心とした守り勝つ野球をしたい」。

 強打のイメージが強い智弁和歌山だが、いまは守備練習に割く時間を増やしているという。

「夏の打高投低」どうなる

 7年ぶりの夏の甲子園をめざす春日部共栄埼玉)も、強化ポイントを守りに絞った。

 春季県大会準々決勝の花咲徳栄戦で守りの乱れもあり、1―12で五回コールド負けした。

 本多利治監督(63)は「練習時間が限られるので、あれもこれもは練習できない。一つのことにいかに集中してやるか。うちは春に課題が出た守備に時間をかけてきた」。

 その裏には、打撃力は向上させづらい、との思いがある。

 例年なら6月は毎週末、県外の強豪と練習試合を重ねて一線級の投手と対戦してきたが、今年は4試合しかできなかった。

 チーム内での実戦形式の練習で補おうとしたが、「(特徴を知る)自分のところの投手では『対応力』が磨けない。夏の大会で140キロを超える球を投げられたらどうなるか、不安」と漏らす。

 少しでも感覚を養わせようと、ほとんど情報がない入学したばかりの1年生投手と対戦させたこともあったという。

 今春、2年ぶりに開催された選抜大会での本塁打は計9本。同じく9本だった2003年以来、18年ぶりに1桁にとどまった。

 もともと、シーズンに入って間もない時期の選抜は投手有利と言われるが、今春は特にその傾向が強かった。

 一方の夏は近年、「打高投低」が顕著だ。

 17年の第99回全国選手権では歴代最多の68本塁打が、翌18年の第100回でも歴代4位の51本塁打が出た。

 例年とは異なるプロセスを強いられたきた今夏。戦いはどうなる。(山口裕起、山口史朗