さよならコリン 闘病漁師と心交わしたベルーガの5年間

中山由美
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小型カメラをみつめるベルーガのコリン=2016年7月16日午前9時39分、北海道網走市・能取湖、中山由美撮影
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 北海道・網走の湖に5年間、すみついていた野生のベルーガ(シロイルカ)、名はコリン。群れからはぐれ、ひとりぼっちで暮らすコリンは、地元の漁師になつき、みんなから愛された。そのコリンが1年前にこの世を去った。心を通わせていた漁師が思い出の碑をつくった。9日に慰霊祭を行い、コリンの「歌声」を収めた動画も公開した。

 北極圏の海に生息するベルーガが網走市の能取(のとろ)湖に姿を見せたのは2015年。子どものメスで、群れからはぐれたようだった。能取湖はオホーツク海とつながる海水の湖で、ホタテの稚貝を養殖する石垣洋一さん(60)の船に近づくようになった。冬は一面に氷が張るが、春になって船を出すと、まっしぐらに寄ってくる。いかりにじゃれて遊び、水中から顔をのぞかせる姿を見せた。

 ただ、ホッカイシマエビやカレイなどの漁も盛んな湖では、船でけがする恐れもある。「守ってあげたい」と、海洋生物研究者や環境問題に詳しい人らが集まり「能取湖の自然環境を見守る会」ができた。漁協や地元関係者らに船の運航などについて注意を呼びかけるとともに、野生動物のコリンとの距離をどうとるか、「共生」のあり方も話し合った。

 コリンと出会ってからの5年、石垣さんはがんで入退院を繰り返した。心細くなる度に「明日もまた会いたい。絶対会いに行くぞ」と思うと勇気がわいた。

 昨年1月に退院し、春から漁に戻った。いつものようにコリンは姿を見せてくれ、5月には動画も撮った。だがそれが最後となった。6月4日、湖畔に打ち上げられた姿は傷だらけだった。これまでも船のスクリューで背中や腹にけがをしていたことがあったコリン。

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船に寄ってきたベルーガのコリン=2016年6月21日、北海道網走市の能取湖、中山由美撮影

 世界各地ではぐれたイルカを追ってきたカメラマンの坂野正人さん(67)は、能取湖に通ってコリンを撮影してきた。幾度かけがしても怖がらずに寄ってくる姿を見てきただけに「人なつっこさが災いしたのかも」と感じた。人の営みのある湖にすみついた野生生物との接点はだれもが初めての経験、地元の人々の声も聞いた。「いろんな意見はあったが、何が一番良かったか今もわからない。他のどこの離れイルカの例も同じく『正解』はない。野生生物との共生を考える宿題をまた残された」

 石垣さんは「自分は元気になり、コリンが病気を持っていってくれた気がして」と今もコリンを思う。

 コリンの死後、坂野さんは記録を残そうと、映像の整理を始めて、一頭で高い声を出して歌っているような姿を見つけ、驚いた。

 「歌ってる!」。ベルーガは高くかわいい声を出すことから「海のカナリア」と呼ばれるが、コリンは鳴き交わす相手もいないのに「一頭で楽しんでいるみたい。野生でこんな姿の記録は初めてでは」と話す。

 能取湖畔の記念碑には動画のQRコードがつけられ、会のサイト(https://atelier-orca.wixsite.com/lake-notoro別ウインドウで開きます)でも紹介している。中山由美

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コリンの動画のQRコード
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ベルーガのコリンと石垣洋一さん=2016年7月16日午前10時19分、北海道網走市の能取湖、中山由美撮影
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石垣洋一さんにすり寄るベルーガのコリン=2016年6月21日午前11時4分、北海道網走市の能取湖、中山由美撮影
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ベルーガの記念碑。「絆」の文字と「能取湖に五年に渡り棲(す)み、人間達と交流した野生のベルーガ『コリン』この湖に眠る」とのメッセージが刻まれている=2021年5月19日、北海道網走市の「レイクサイドパーク・のとろ」、石垣洋一さん撮影
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水中から船上の人たちを見上げるベルーガのコリン=2016年7月16日午前10時22分、北海道網走市の能取湖、中山由美撮影
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石垣洋一さんに寄ってくるベルーガのコリン=2016年6月21日午前10時58分、北海道網走市の能取湖、中山由美撮影