国立大も140キロも 文武両道、「朝勉」続けるエース

小島弘之
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 午前7時の教室。机に座って参考書を開き、問題を解き始める。クラスの一部の生徒が自主的に行っている「朝勉」の時間。

 そんな時、グラウンドから甲高い金属音が決まって聞こえてくる。

 「舛岡たちが朝練やっているんだろうな」。羽咋(石川)のエース岡野朝陽(3年)はペンを止める。油断すると野球のことに気持ちが傾きそうになる。

 でも、すぐに気持ちを切り替え、参考書に再び目を落とす。

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 中学時代、野球に没頭しようと私立への進学も考えたが、勉強にも比重を置くためにと羽咋を選んだ。難関大に合格者を輩出する進学校で、来年は創立100周年。野球部をはじめ、剣道やなぎなたなどの部活動も盛んで、「文武両道」の校風がある。

 「中間テストでは何人か赤点がいたみたいだな。今日の午後からは死ぬ気で勉強しろ」。今年6月、羽咋であった他校との練習試合が終わった後、集まる部員に監督の宮嵜宏正(60)は、冗談交じりに言った。

 だが、岡野はまんざらでもなかった。「勉強します」。校舎に向かった。

    ◇

 勉強に本腰を入れたのは昨年12月。通信講座を全国に展開する企業の進路セミナーが学校で開かれた。

 「受験勉強を開始する時期が高校3年の4月の場合、希望校の合格率が5~6割になる」

 担当者が示すデータに焦りを覚え、すぐに物理と化学の問題集、英単語帳を購入し、勉強に取りかかった。今年春には「朝練」から「朝勉」に切り替えた。

 ちょうど同じ頃、春の県大会で金沢龍谷の左投げエース井上透摩の投球を球場で見た。140キロ超の球威に驚き、スライダーのキレにため息が出た。観客席にはプロ球団のスカウトとおぼしき人が複数いるのを見た。同じ高校生、同じ投手でも、ここまで差が出るのかと感じた。

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 とはいえ、自身も羽咋のエースで、130キロ台後半の直球と変化球を織り交ぜた力強い投球が持ち味。春の県大会の星稜戦では、七回コールド負けを喫したものの、強打者ぞろいの星稜を相手に6回を1人で投げきり、自信になった。「球速140キロを出し、大会の最優秀選手にも選ばれる」。そんなこの夏の目標は捨てていない。

 勉強も同じ心意気だ。看護師の母早苗(45)から医療の道を薦められ「人のためになる仕事をしたい」と薬剤師の夢を持ち、国立大の薬学部を目指す。

 「野球か勉強か」ではない。「野球も勉強も」。貪欲に二兎を追う。

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 土曜の朝。羽咋で開く練習試合のため、岡野は雨上がりのグラウンドにいた。

 スポンジを手に、水抜きの作業をしていたが、ふと手を止め、校舎の方に目をやった。

 「この時間も勉強をしている同級生たちがいるんだな」

 いくばくかの焦りを感じつつ、でも「この時間は野球を楽しもう」と自分に言い聞かせた。(敬称略)(小島弘之)