甲子園で活躍の親友、決勝で会おう 智弁学園の「穴」は

米田千佐子
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 親友がテレビの向こうで戦っていた。

 今春の第93回選抜高校野球大会智弁学園(奈良)は8強入りし、主将や4番として引っ張った山下陽輔(3年)は毎試合、安打を放ち、打点を挙げ、チームを鼓舞し続けた。山下が躍動する姿を、郡山(奈良)の主将で捕手の山口瑛士(3年)が画面越しに追った。

 「優勝してくれ」。山口は強く祈った。「一つでも多く勝ってくれたら、それだけ智弁の戦力を分析できる」

 選抜で勝ち進む智弁学園の全試合を、山口に加えて郡山の選手約20人がミーティングルームで入念にチェックする。リアルタイムで見た後は、投手に注目するなど繰り返し録画を見る。「この球は見逃したらあかんな」「この球は打てへん、捨てやな」

 投も打も圧倒的な力を見せつける彼らに、僕らはどこで勝るか。一つ一つの球や配球に目を凝らした。

 全体練習後、山口はもう一度振り返った。録画を見ては止め、巻き戻す。すべての打者の全打席を入念に見ては考え込んだ。どの球に軌道が合っているか、どの球を詰まらせたか。

 その後は守備位置だ。「ここ飛びそうやなあ」「ここ打たれたら危ないなあ」。どんなときにどの選手をどう配置するか。「3歩前」「2歩右」など、捕手として、試合で細やかに選手を動かすのは山口だ。

 あらゆる角度から、ひたすら「穴」を探した。「泥臭いけど、穴を探すしかない。頭を使ってどれだけ相手より勝れるか、です」

     ◇

 「親友です」。智弁学園の山下も山口についてそう語る。そして付け加えた。

 「ライバルです」

 出会いは小学6年、山口のいた奈良市の少年野球チームに山下が入ってきた。強肩強打で俊足の山下に山口は衝撃を受けた。2人はすぐに仲良くなった。山下が捕手で山口は三塁手。2人はチームの両輪として活躍した。山口が主将を務め、県内91チームの頂点に立ち、山下は最優秀選手(MVP)に選ばれた。

 同じ伏見中学(奈良市)に進んだ。勉強も野球もしたかった山口と、実績を重視した山下は別々の硬式チームを選んだ。だが練習日以外で暇ができたら「ずっと一緒に行動していた」と2人は口をそろえる。高架下で野球の練習をし、山口の家で勉強やゲームをした。

 山口は、文武両道で12回の甲子園出場を誇る公立の古豪・郡山の野球部を希望した。山下は智弁学園に進学。そのことを知った山口は「倒したい」。とっさに思った。

     ◇

 高校の初対決は1年だった2019年秋。秋季近畿地区大会県予選準々決勝で、山口は左翼を守り2番。山下は三塁手で5番の中軸を任された。山口は第2打席、その夏の甲子園で活躍した智弁学園・西村王雅を相手に二塁打を放った。試合は1―10と智弁学園が大勝。山下は自分の成績は覚えていないが、山口の活躍は鮮明に思い出す。

 2人がともに主将になって迎えた20年の秋の県予選2回戦で再び激突した。山口は痛む腰に注射を打って2番捕手で出場。山下も左足のケガで途中出場。山口は3打数2安打と活躍したが、結果は3―5で智弁学園にまたもや敗れた。

 今春の県予選では2校の対決はなかった。県予選後、2人は電話で模試の話で盛り上がった。英語と数学の点数は山口が上回ったが、国語は山下の勝ち。夏の奈良大会はどうか。組み合わせでは直接あたるのは決勝だ。

 迎え撃つ山下は「野球にあきらめがつくくらい、負かしたい」と挑発する。智弁学園の攻略で山口には自分なりの答えはある。「さらにぎりぎりまで探します」と笑みを浮かべた。

=敬称略(米田千佐子)