魔球「ナックル」、僕のコツは小指 親子で極めた投げ方

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 身長183センチで長い手足。大谷(京都)の山村陸人(3年)がマウンドに立つと、ひときわ大きく見え、威圧感がある。どんな速球を投げるのかと身構えると、意表を突くように、100キロに満たない球が時には右に時には左に、不規則に落ちてくる。その軌道は投げた本人にも分からず、捕手も捕りにくそうにしている。山村の一番の武器「ナックル」だ。

 山村の投げ方には特徴がある。人さし指、中指、薬指の3本を曲げて球を握るところまでは普通のナックルと同じ。だが、山村は小指で少しだけ回転をかけながら、リリースする。

 園部中(南丹市)の頃から投手だった山村は、ナックルに憧れていた。そのきっかけは、野球好きなら誰もが知る野球ゲーム「実況パワフルプロ野球」だった。ゲームの世界でナックルは、不規則に揺れながら落ちて打者を翻弄(ほんろう)する。打たれることはほとんどない。「まさに魔球。これを実際に自分が投げられれば無敵だ」と思った。

 動画投稿サイトで「ナックル 投げ方」と検索し、投げ方や持ち方を調べた。「ゲームで投げているみたいになるかな」。期待を胸に、放課後の練習で挑戦してみたが、そう簡単にはいかなかった。

 力いっぱい腕を振っても、捕手まで届かない。本塁の手前で球はバウンドした。「変化するとかしないとかという以前の問題だった」。そのうち、指を痛め、習得を断念。強豪、大谷に入学し、ゲームをする暇もなくなった。ゲームの世界の憧れの球のまま、ナックルを意識することはなくなった。

 だが高1の秋。月に2度、投手コーチとして同校に指導に来る元プロ野球選手の谷村智啓(73)が、腕や手首の使い方を確認するために、3本指を曲げるナックルの握り方で球を投げる練習を取り入れた。この練習で、山村が投げると意図せず揺れながら落ち、不規則な軌道を描いた。捕手が山村に言った。「ナックル投げるなら、言ってから投げろよ」

 偶然変化しただけかもしれない。だがうれしくて、その日帰宅するとすぐに、園部高野球部で投手だった父の佳之(45)に「ナックル投げれるようになったんや」と報告してしまった。自分の武器にしたい。再び習得に向け、練習を始めた。

 練習後も、家の前の道路で父に球を受けてもらった。リリースを早くしたり、遅くしたり、腕の位置を下げ、横手で投げてみたり――。様々な投げ方を試し、スマホで動画を撮影。何度も手元や投げ方、回転数を確認した。「どうやったらナックルにたどり着けるのか」。親子で試行錯誤を続けた。

 動画を見返し、打者がいる状態の練習でも投げた。そのうち完全な無回転ではなく、ややシュート回転がかかった時に、球の軌道が不規則に変化していることが分かった。独自のアレンジを加えることで、変化量も大きくなり、昨秋の府大会からは、試合でも打者を打ち取れるようになった。

 山村は春季府大会、肩を痛めベンチを外れていた。だが今は回復し、最後の夏へ万全の準備で臨む。「ナックルを投げる投手は、おそらく京都では僕だけ。強打者を打ち取り、マウンドで笑う姿をイメージしている」と意気込んでいる。

ナックル

 人さし指、中指、薬指の3本を曲げ、指の背がボールに当たるように握る。リリース時に指ではじくように、押し込むイメージで投げる。ほぼ無回転で、揺れながら落ちるため打者は捉えにくい。本人も捕手もどう変化するかわからない。投げる投手はほとんどおらず、予測不能の特殊な変化球なため「魔球」と呼ばれる。(取材協力=奥本保昭さん・元京都成章監督)