聖光学院、不眠合宿からの引退試合 涙の選手に監督も涙

福地慶太郎
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 夏の大会に向けた特別な日は涙、涙、涙の連続だった。

 4日、福島県桑折町にある聖光学院の野球場で3年生同士が対戦する壮行試合があった。夏の福島大会のベンチ入りは20人だが、3年生は43人。多くが最後の大会をスタンドで迎える。ベンチに入れない選手たちが高校生活で学んだ成果をプレーで示し、甲子園を懸けた戦いに挑むレギュラー陣に思いを託す。特別な思いが詰まった引退試合だ。

 いわき市出身の左投げ投手、長山侑世(ゆうせい、3年)は登板に向けてベンチ前でキャッチボールを始めた時から涙をこらえられなかった。「ナイスボール!」。心配して駆け寄った3年生たちが笑顔で励ました。

 長山は中学生の時はエースで1番打者。中3の夏に地元の球場で、聖光の試合を見て「オーラがすごい」と憧れて進学した。入学後は制球力に自信をつけたが、同学年には好投手が多く、今年の春からは練習試合の登板は一度もなかった。「自分はもう選手としての道はないんだ」と悔しさがこみ上げた。

 それでも、「チームのために」と率先して打撃練習の投手を引き受けた。レギュラー陣が大会で結果を出せるよう、練習では「魂のこもったボール」を投げ続けた。

 この日は五回裏に登板。二塁打と四球などで2死一、三塁のピンチを迎えたが、気迫のこもった投球で中飛に打ち取り、無失点に抑えた。マウンドを降りると、中学からのチームメートでレギュラーの遊撃手皆川雅己(3年)らに迎えられ、涙があふれた。ベンチ前では監督の斎藤智也(58)から「ナイスピッチ」と声を掛けられた。

 前夜には、3年生とレギュラーが参加する「不眠合宿」と呼ばれる大会前の恒例行事があった。

 選手らは日中に他校との練習試合などを行い、いったん休憩して、午後9時から全体練習を再開。2時間半にわたる打撃練習を行い、午前0時過ぎからは150メートルのダッシュを15本以上繰り返した。

 足がつったり、苦悶(くもん)の表情を見せたりする選手もいたが、互いに励まし合った。メニューを終えた選手たちは笑顔でハイタッチを交わした。

 普段は科学的なトレーニングを採り入れ、緻密(ちみつ)な戦術の確認を繰り返す。対照的に見える練習の狙いを、斎藤は「過去には大会前、選手が緊張して寝られないことがあった。大会中に寝られなくても、合宿をやったから大丈夫だと思ってくれればいい。みんなで寝ずに我慢することでチームの和が育まれる」と話す。

 土砂降りの中、選手たちは集中力を切らさず、壮行試合は2時間8分で決着した。ホームベースの前に整列してあいさつを終えると、長山はエースの谷地(やち)亮輔(3年)を強く抱きしめ、「負けんなよ、絶対! お前に任せたぞ! 谷地!」と思いを託した。

 「良いチームになったな」。肩を震わせて泣きじゃくる選手たちを前に、監督の斎藤は自身の涙をぬぐった。そして、レギュラーの選手たちに向かって続けた。「今日でユニホームを脱ぐやつ、グラブとバットを置くやつが20人以上いるんだからさ。大会でユニホームを着るやつ、(甲子園決勝の)8月下旬まで脱ぐなよ。絶対に着ろよ!」。選手たちは「しゃあー!」と答えた。

 「全員がすごいかっこよかった。このメンバーの思いも背負って戦う」。試合中、何度も涙をぬぐった主将の坂本寅泰(ともやす)(3年)も誓った。ライバルたちが「打倒聖光」を掲げ、14連覇の阻止をめざす夏の福島大会は7日に開幕した。(敬称略)福地慶太郎