スポットライトはいらない 100万球が報われるとき

有料会員記事スポーツPlus

山田佳毅
[PR]

 グラウンドで声援を浴びることは、決してない。ファンから名前を覚えてもらえることもほとんどない。

 華やかな世界にいても、スポットライトが当たらないプロの仕事人たちはいる。

 「ジミーさん」は、そんな一人だ。

スポーツPlus

スポーツPlusはオリジナル記事を有料会員の方にメールで先行配信するニュースレターです。今回は7月13日配信分をWEB版でお届けします。

 9月で60歳になる。本名、清水治美。職業は、プロ野球・中日ドラゴンズの打撃投手。25歳から、この道一筋。年間におよそ3万球、これまで35年間のトータルで、100万球近いボールを投げてきた。気づけば、プロ野球では最年長の打撃投手になっていた。

 「体だけは丈夫だったからね。風邪をひいて仕事を休んだことはないよ」。身長178センチ、体重79キロ。名前の「治美」から、チームのみんなが親しみを込めて「ジミーさん」と呼んでくれる。

毎週火曜日に、中日ドラゴンズにまつわる話題を提供します。

 埼玉・川越商で左腕投手として頭角を現し、社会人の日本通運に在籍していたときに中日からドラフト6位指名を受けた。しかし、プレーしたのは1985年から2シーズンだけ。1軍での登板は一度もなくクビになり、翌年から打撃投手に転じた。

 どう打者をねじ伏せるのか、から、いかに気持ちよく打ってもらえるか――。

 立場は変わっても、プロはプロ。給料をもらい、その道で生き残るために何が出来るかを考えてきた。

 大事にしたのは、ボールの回転だ。癖がなく、お辞儀をしない回転のいいボールは、バットではじき返されたときに、いい音を立てて打球が飛んでいく。

 マウンドからホームベースまで18メートルあまり。打撃投手はそこから2~3メートル、打者に近づいて投げる。球速は110キロ程度だが、その距離なら打者には打ちごろになる。「理想の球」を投げるためには指先の感覚も大切。左手指の節はごつごつと太いが、指先は痛めないように、爪をヤスリできれいにそろえている。

 投げる相手は、年俸数億円のスター選手もいれば、売り出し中の若手やベテランもいる。コントロールを失い、彼らの体にボールを当ててケガを負わせるわけにはいかない。かといって、緩い球やストライクゾーンを外れた球ばかりでは、打撃練習にならない。プレッシャーのため、体がうまく動かなくなる「イップス」になってやめていった仲間を、これまで何人も見てきた。

 ジミーさんは緊張で、腕が縮こまらなかったのだろうか。そう聞くと「なかったね。性格がいい加減だからかなあ、ハハハハ」。

 職人的なプロの技は、地味で目立たない。自分から説明することもない。それでも、やるべき仕事をきちんとこなしていれば、誰かが見てくれる。

 報われたと感じる時がある。「ありがとう」の気持ちをもらったときだ。

 ジミーさんの球を好んだのが…

この記事は有料会員記事です。残り428文字有料会員になると続きをお読みいただけます。
スポーツPlus

スポーツPlus

競技に生きる、そこに生きた、それを支えた人たちの、勝ち負けだけじゃない物語を描きます。ニュースレター「スポーツPlus」は、有料会員の方に毎週お届けします。[記事一覧へ]