天理・智弁の壁高くても 背中押す上原浩治さんの逸話

米田千佐子
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 今春の選抜大会で天理が4強、智弁学園が8強入りし、奈良県勢の実力を全国にとどろかせた。この夏の甲子園に向け、どちらが全国高校野球選手権奈良大会を制すのか。

 野球ファンの関心が2強に集まるなか、不敵な笑みを浮かべるのは、奈良大付監督の田中一訓(かずのり)(47)。チームは現在、2強に続く「3番手」と目される。だが、2強の背中は遠い。それでも田中は言った。「今のチームは3年前と雰囲気が似てるんです」

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 3年前、2018年の第100回記念の奈良大会。奈良大付は予想を覆し、快進撃を続けた。

 前年の秋季近畿地区大会県予選は8強。だがその後の春の県予選は3回戦敗退。シード外から挑んだ夏だった。投打がかみあい、大量得点の勝利や終盤の逆転劇などで勢いに乗り、決勝まで駆け上がった。

 「歴代最弱のチームやったけどなあ」。田中は振り返る。監督に就任した04年秋以降、ほとんどの年で勝率が7割を超えた。だが100回大会に臨んだチームは5割8分。練習試合も含めた敗戦数は51と最も多かった。その前年のチームの勝率7割7分3厘と比べると大きく見劣りした。

 「結果を求めずに、自分たちのできることをしていこう」。目の前の一戦一戦に向き合う中で、エースが生まれ、打てる中軸が育った。秋の県予選の準々決勝で逆転負けしたチームが、奈良大会決勝で2度追いつかれても踏ん張り、延長サヨナラ勝ちするチームに化けた。

 田中は当時を振り返る。「上の代は強かった。自分たちは弱い。でも弱いからこそ、強くなりたいという気持ちが強くなるんです」

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 田中はこの夏に挑むチームも「弱かった」と言う。

 新チームを結成した昨秋以降、11月までの練習試合53試合で28勝22敗3引き分け。勝率は5割6分。周囲から「史上最弱」と言われ続け、主将の本間賢人(3年)もエースの二宮知也(同)も「ほんとに嫌だった」。

 最初に成長を見せたのは、二宮だ。右のサイドスロー。中学時代の硬式チームでは3、4番手。高校で内野手転向を勧められ、闘争心に火が付いた。

 「勝ちたい」。強い気持ちがチームにも広がっていく。本間は「一つになり始めて、同じ方向を向けた。力も粘りもついた」。

 「厳しい練習でも手を抜かずに一生懸命やる学年だな」と田中。冬を越えて結果は数字に表れた。3~4月の練習試合は24勝3敗6引き分けと大きく勝ち越した。

 6月初旬、恒例の3週間の「追い込み」が始まった。全体練習後、走り込みや筋トレを限界までやる。

 今年はベンチ入りしない選手も含めて3年生全員が参加した。最後の走り込みでは、遅れそうな仲間の背中を押し、みんなでゴールしようとする姿があった。

 投手としてプロ野球巨人や大リーグでも活躍した上原浩治(46)の逸話がチームをもう一押しする。

 田中は大阪体育大3年の時、1年の上原とバッテリーを組んだ。プロ入り後に大卒新人で20勝を挙げた上原は、大学時代も格上が相手だといつもより燃えたという。強いものと戦うときの上原の心意気を田中は折に触れて、選手に説いた。

 自分たちの「弱さ」を認め、体をいじめ抜く選手たちを見つめ、田中は「しんどいことを楽しく一生懸命やっている。夏の大会では持っている以上の力を出しそうや」と笑った。

=敬称略(米田千佐子)