種痘の歴史から考える 日本社会とワクチン

有料会員記事新型コロナウイルス

聞き手 編集委員・塩倉裕
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 人類が根絶に成功した唯一のウイルス感染症とされる天然痘(疱瘡(ほうそう))。効果をあげたのは「種痘」と呼ばれるワクチン接種でした。現在、それとは異なるウイルス――新型コロナウイルスによる被害を抑え込むためのワクチン接種が急速に進められています。私たちの今いる場所をより俯瞰(ふかん)的に見つめ直す手がかりを求めて、江戸時代後期から昭和後期にかけて日本列島で行われた1世紀余りの種痘の歴史を調べた医療社会学者の香西豊子(こうざいとよこ)さん(佛教大学教授)に、話を聞きました。

     ◇

 ――江戸から昭和までにわたる種痘の歴史を調べ、江戸期についての知見をまとめた著書「種痘という〈衛生〉」を発表した直後に、新型コロナウイルスの感染が広がりましたね。

 「ええ。刊行は2019年12月です。コロナ禍が来るなんて、もちろん全く考えていませんでした。種痘に関する古い記録をできる限りまとめ、後世の人が読める形で残しておきたいと思って作った本です。19世紀の江戸期から、戦後に日本政府が種痘事業を廃止した1976年までの間を、主な対象にしています」

 「たとえば天然痘と言うと、夏目漱石が疱瘡による『あばた』に悩まされていたことは比較的よく知られています。でも、そのあばたが感染流行によるものではなく明治政府が主導した種痘の副反応で引き起こされたものだという話は、あまり知られていません」

 ――著書では、徳川将軍の多くが天然痘に罹患(りかん)していたという話も紹介していますね。

 「ええ。幕府の記録によれば、徳川の将軍15人のうち14人が一度は天然痘にかかっています」

 ――天然痘制圧の歴史には、人類にとっての成功体験というイメージがあります。現在のコロナワクチンも、人々にとっての希望や切り札として期待されている存在です。

 「そうですね。種痘を進めようとした医師たちの中にも、人命を救いたいという医療従事者としての強い動機がありました。天然痘とコロナではそれぞれにウイルスの性格が異なりますが、有効性の高いワクチンを人類が手にしえたという点には共通性があると思います」

 「ウイルス感染症である天然痘は、人類が根絶に成功した唯一のヒトの感染症です。江戸時代の医師たちの記述を読むと、天然痘の致死率は当時、小児の場合で1~2割と見られていたようです。大人がかかることはまれでしたが、かかった場合の致死率は9割程度と見られていました」

 「日本で初めて種痘が実施されたのは18世紀です(ヒト由来の人痘)。英国のジェンナーが考案した(牛由来の)牛痘が海外から導入されて注目が広がり始めたのは19世紀に入ってから。江戸時代の末期でした」

 ――種痘が日本社会に導入されていく過程で、何が起きていたのでしょう。

 「人々に種痘を行ってもよい…

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