片手だけで投球も捕球も 左手に障害、気にしないエース

滝沢貴大
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 第103回全国高校野球選手権和歌山大会に出場する県立神島(田辺市)の投手・笠松子龍(しりゅう)君(3年)は、生まれつき左手に障害があるが、工夫しながら練習を重ねてきた。高校最後の夏は背番号1を背負い、チームを引っぱる。

 チームメートとノックを受ける笠松君。マウンドで右腕を振って投球の格好をした後、左手に乗せたグラブを素早く右手にはめてゴロを捕球。再びグラブを外し、右手でボールをつかんで一塁に送球した。

 中瀬学監督(41)は「これまでの指導の基本が通じないが、フィールディングも遜色ない」。打撃はアンダーシャツの袖を伸ばしてバットのグリップに巻き付け、右手だけで振る。練習試合で本塁打を放ったこともあるという。

 高校球児だった父の郷士さん(41)と幼いころからキャッチボールを続け、小学3年で本格的に野球を始めた。グラブを着け替えるスタイルは、そのころには自分で編み出していた。打撃のやり方は、高学年のときに母の千草さん(39)がインターネットで同じような障害がある選手の動画を探してくれ、それを参考にした。「野球は本人がやりたいと言ったことだったので、その後押しがしたかった」と千草さん。

 中学に入ると主力選手として試合に出るようになった。「野球は勝つ喜びが最高。自分が投げて抑えたときは楽しい」

 カーブでカウントをとり、制球良く直球で内角を突き、緩急をつけたチェンジアップで打ち取る。中瀬監督も信頼を置き、新チームでは先発起用が多い。「器用で負けず嫌い。中学のときの監督から『障害のことは気にするな』と言われたのを心に留めており、本人も気にしていないようだ」

 春に続き、夏もエースナンバーを託された。笠松君は「責任を感じた。春に1番をもらったときより、ずっと重い」と話す。

 笠松君について、主将の金子有成君(3年)は「他の選手より負担は大きいと思うが、そのことを理由にしたことはない」と話す。当初は障害に驚いたが「プレーを見て、子龍の方がうまかった。それから障害のことを気にしたことはない」。

 笠松君から継投することが多い福田航洋君(3年)は「他人より努力をしないといけなかったと思う。子龍が崩れたときやピンチのとき、僕があいつの分もしっかり抑えたい」と話す。

 笠松君は「障害があることを普段、意識していない。ハンデだとは思わないし、言い訳にしたくない」と言う。目標は幼いときから憧れてきた甲子園だ。16日、紀北工と初芝橋本の勝者との初戦に挑む。(滝沢貴大)