先天性難聴の主将兼エースが完投 「他喜力」が支えに
(10日、高校野球静岡大会 袋井9-3下田)
両チーム無得点で迎えた三回表、下田は安打や死球で無死満塁のピンチを背負う。マウンドに立つエース・内山浩汰主将(3年)のギアが上がった。
「絶対に負けたくない」。袋井の6番打者を空振り三振に抑えると、続く打者2人は外野への飛球に。野手の好守もあり、絶体絶命の窮地を犠飛の1失点で切り抜けた。
両耳が先天性難聴で、音は補聴器をつけた左耳からかすかに聞こえるだけ。それでもハンデを乗り越えて野球を続けてきた。
野球を始めたのは小学2年の頃。父親の勧めがきっかけだった。「野球はチームワークが全て。自分から積極的にコミュニケーションを取るようになった」。閉じこもりがちだった世界が変わった。
外野手が深めに移動すればベンチの選手が大きく手を振って伝え、内野のシフトも捕手が身ぶり手ぶりを交えて伝えてくれる。そんなチームメートにも支えられ、主将として、エースとしてチームを引っ張ってきた。
この日は9失点したものの、175球の熱投で九回を投げ抜いた。降板を検討する山下貴大監督に志願しての完投だった。支えになったのは「他喜力(たきりょく)」。自分ではない誰かのために努力するという意味のチームスローガンだ。
「自分のためだったら投げきれなかったと思う。応援してくれた人、支えてくれた人のために全力を出し切れた、悔いはない」(山崎琢也)