今月もレシートためちゃった 苦手の勝負減らし金銭管理

中島美鈴
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 買い物のレシートの整理ってめんどくさいですよね。残していても、すぐに困るわけでないし、なんとなく処理するのも後回しになりがちです。お金の管理の仕方の悩みについて、臨床心理士の中島美鈴さんが解説します。

すぐに成果感じられない家計簿

ADHDの主婦のリョウさんも頭を抱えています。家計簿をつけようと、レシートをためていたのですが、それがダイニングテーブルの半分を覆うようになってしまったからです。財布もパンパンになってしまいました。ハンドバッグの内ポケットにも、手帳にも、洋服のポケットからも、車のダッシュボードからも、レシートが出てきます。

 夫がいいます。

夫「もう捨てていいんじゃない?家計簿なんてつけなくていいよ」

リョウ「ちょっと、この家計簿いくらしたと思ってんの。この表に埋めていけば、お金の流れがよーくわかるらしいのよ!」

 ADHDの方に多い悩みのひとつは「金銭管理」です。

 でも毎日コツコツ、レシートから数字を書き写す作業がどれほどADHDの方に向いていないかはよく知られたことです。まず、数字を書き写し間違えます。電卓があるとはいえ、電卓のキーを打ち間違えます。ケタがいつの間にか漏れています。

 なにしろリョウさんのようにレシートをため込みます。なぜなら家計簿ってつけて、すぐに「おーーーなるほど!」って何かがわかるといった成果が出ないため、面白みにかけるんです。これがレシートの入力を先延ばしさせます。

 ADHDの方の脳の報酬系の仕組みについて多くの研究がなされていますが、そこからわかったことは、「すぐに成果が出ないものに対してはやる気を出しにくい」という報酬遅延障害です。家計簿をつけることは報酬が1カ月後に遅延される、全くやる気の出ない、楽しくない作業なのです。これがADHDの方の金銭管理を難しくしています。

 リョウさんは職場においても、報酬遅延障害や不注意によるケアレスミスするような困難な業務がありました。月末の集計作業です。

 どうしても数字を打ち間違えます。

 どうしても月末がきつくなるから、早めに日々データをコツコツ入力すればいいものなのに、月末までため込んでしまいます。

仕事の交換が難しければ

 リョウさんなりに、ミスを防ぐ方法をいろいろ試してはいます。

 エクセルの入力するセルをあらかじめ黄色に塗りつぶして、入力箇所を間違えないようにしたり、画面に付箋(ふせん)を貼ったり、入力を終えたら再度桁数をチェックしたり、プリントアウトして確認したり……。その結果、ミスはずいぶん減りましたが、0にはなっていないのです。他の人と比べると、まだまだ多いのです。

 これだけ本人が努力してもミスが繰り返される場合には、可能ならば職場では担当を変えた方が効率的です。リョウさんがこの集計作業に10の力を注ぐ時に、こうした作業が得意な社員は3の力で仕上げるかもしれません。だったら、得意な人に任せて、リョウさんが3の力でできるものに注力してもらうべきでしょう。もしかすると他の人が10の力を必要とする仕事も、リョウさんなら2か3でやり遂げてしまうかもしれません。

 ただし、この方法は、他の人と仕事を交換し合えるような人員が豊富な大きな職場では、こうしたことが可能ですが、小さな事業所では無理があるでしょう。

 その場合、まず検討すべきは、

 「その作業本当に続けないとだめか?」ということです。

 少なくともリョウさんの家の話に戻れば、家計簿をつける適任者はリョウさんでも同じくADHD傾向のある夫でもないのです。適任者はいないし、第一、家計簿がきちんとつけられたところで、夫婦ともそれを分析するタイプではありません。家計簿を用いた細かい金銭管理よりは、この夫婦には、「1カ月の食費はこの封筒。外食やレジャー費はこの封筒から出す」といったアナログな管理の方が向いています。

その日ごとに達成感を

 しかし、仕事の集計作業の場合には、省略できないことも多いでしょう。

 そうした場合には、「1カ月ごとの集計」という報酬の遅延した構造を見直します。

 リョウさんには、その日の伝票はその日のうちに入力をお願いするのです。入力が完了したら、カレンダーに丸をつけます。こうして、「日ごと」管理することでため込むリスクを減らせますし、カレンダーに丸がつくたびにちょっとした達成感を持つことができます。報酬がその日のうちにやってくるというわけです。

 ADHDの方が得意なことだけを生かして働けるという環境はまれかもしれませんが、許されるなら「省略できないか?」「他に頼めないか?」「外注できないか?」とギリギリまで苦手で勝負しなくていい環境を整えることをお勧めします。

 苦手での勝負が減れば、得意なことに使えるエネルギーが増えます。結果、仕事のパフォーマンスが上がるはずです。

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中島美鈴
中島美鈴(なかしま・みすず)臨床心理士
1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。