本当の自分を知られたら怖い もうばれてるから大丈夫

中島美鈴
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 「本当の自分」というのは結構やっかいな考え方ですよね。自分に自信がないと、どうしてもよろいをまとって他人と向き合いがちです。でも、人と仲良くするには、本当の自分をさらけ出した方が良いときもあります。臨床心理士の中島美鈴さんが解説します。

欠点が人を結びつけるツールに

 健康食品会社に転職したリョウさんは、仕事を覚えることに必死です。雑談したい気持ちは山々ですが、ケアレスミスが多過ぎて、最近は黙ってキャラを隠しながら仕事をせざるを得ません。

 リョウさんは職場では、全く自分を出せていないと感じています。

 でも、思えば、小学生の頃から「なんだか自分は人と違う」という違和感をもっていたので、自分を出すのが怖くなっているのも事実です。

 リョウさんに限らず、ADHDの方のカウンセリングをしていると、「本当の自分を誰にも出せない」「本当の自分を知られたらみんな離れていくんじゃないか」だからこそ「いつも本心を隠して、上辺だけの会話をしていて疲れる」「人間関係がストレス」というお悩みをうかがいます。ADHDの方で、これまでの失敗経験や対人関係上の傷つき体験が多い場合には、こうした悩みを抱えやすいようです。

 一方で、ADHDの方でグループセラピーをすると、不思議なことが起こります。

 これまで「できていないこと」「隠したいほどの欠点」と思っていた、部屋の掃除ができていないこと、金銭管理ができていないこと、二度寝も三度寝もしてしまうこと、なんでも締め切りギリギリか間に合わないことなどが、話のネタになり、人と人を結びつけるツールになっているのです。

 そこでは誰も人の話をきいて「まあ、だらしない」なんて批判的な評価をしません。代わりに、「私だけじゃなかったんだ」とほっとしているようです。

 「実は私もね」と打ち明け話が止まりません。通常の人間関係よりもすぐに打ち解けて仲良くなれているかんじがします。

 これはセラピーの場に特異なことでしょうか?

 実は違います。

アニメの主人公が愛されるわけ

 国民的人気のアニメ、「ドラえもん」でも「ちびまる子ちゃん」でも、主人公は決してできのいい子どもではありません。圧倒的に成績が悪くて、泣き虫で、なんならズルもするような子どもです。

 のび太くんが宿題をせずに昼寝しても、ちびまる子ちゃんがおじいちゃんをだましても、私たちの誰もが彼らを責めていません。むしろ安心してみています。彼らと同じ経験がなかったとしても、共感すらしているのです。

 お笑い芸人のネタをみてみても同じことがいえます。芸人が自らに対して「モテない」「太っている」「はげている」「売れていない」など、世間的にネガティブとされる発言をしたときに、客席からは笑いが起こります。

 まれに「いかにもモデル体形でもなく、モテそうにない」身なりの人が、自称モテ子を演じたその勘違いっぷりをネタにすることもありますが、こうした場合にもその痛々しさや切なさが笑いを誘うわけです。

 一部の有名人のようにカリスマ性を持った人の自慢記事を目にするときに、「憧れ」の感情は喚起されても、「親しみ」の感情は生まれないでしょう。

 私たちが親密になるときには、だめな一面を見せ合う誠実さや率直さが必要なのです。

 暑い夏の日の部活の練習で、「ここで一生懸命やれば強くなれるよね!」と仲間と声を掛け合うのもけっこうですが、「あーー、監督ひどいよね。もうやってらんないよ。」と本音の愚痴をこぼし合えた方が仲間の絆は強くなりますよね。

 ADHDの方の魅力のひとつは、「誠実さ」「屈託のなさ」です。それがあるからこそ、本来の明るいアイデアにあふれた良い面が輝くのです。

自分を叱らないで

 もっと本当の自分を出していきましょう。きっとその方が人と仲良くなれます。

 そのためには、まずは自分が「私ってこういうドジなところあるのよね」とまあ、自分を叱らないであげることです。

 また、おそらく多くの方は「隠しているつもりでも、ほんとの自分はけっこう出てしまっている」のです。「本当の自分を知られてしまったら周りが離れていくのではないか」と心配する気持ちが起こったら、自分にこう言い聞かせましょう。

 「大丈夫。私は本当の自分を全て隠し通せるほど器用じゃない。もうとっくに周囲にはバレている。その上で一緒にいてくれるんだから感謝だな」

 リョウさんもそうです。リョウさんは隠しているつもりかもしれませんが、あいさつのときの飾らない表情や、ミスしたときの誠実な謝り方などから周囲も「そそっかしいけど、悪気のない人なんだな」「けっこう明るくて面白い人なんだろうな」と感じ取っているはずです。

 信じられない方は、周囲の人を思い浮かべてみてください。信じられないぐらい人柄ってあいさつひとつにもにじみ出ていると思いませんか?

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中島美鈴

中島美鈴(なかしま・みすず)臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。