「ジンジャーエールあげるから黙れ」ヤジ排除と民主主義
2019年の参院選で、札幌市で街頭演説中の安倍晋三首相(当時)にヤジを飛ばした市民が北海道警の警察官に排除された問題から、15日で2年。ドキュメンタリー「ヤジと民主主義~小さな自由が排除された先に~」で、優れたジャーナリズム活動に贈られる日本ジャーナリスト会議(JCJ)賞を受けたHBC北海道放送報道部の山崎裕侍(ゆうじ)編集長(50)と長沢祐(たすく)記者(28)に尋ねた。表現の自由とは、民主主義とは。そしてメディアの存在意義とは――。
首相へヤジ飛ばした市民排除 何があったか徹底取材
――道警警察官による市民排除の瞬間を見た時、どのように感じましたか。
山崎「異様でしたね。『安倍やめろ』と大声を出したとはいえ、1人の一般市民を何人もの警察官が取り囲み、一瞬のうちに数十メートル後方に離していった。周囲とトラブルがあったわけでも、暴力沙汰が起きそうな危険性があったとも思えない中で、ああいうふうに排除するというのは恐ろしいなと思いましたね。同時に、このまま放っておいたらもっとひどい人権侵害につながるかもしれないとも思いました」
長沢「私は入社1年目でしたが、記者として、まずは何があったかを取材するべきだろうと思いました。あれだけ大勢の聴衆の中で、1人の市民が一瞬にして連れ去られるというのを初めて見ました。何があったのかを取材して視聴者に伝えなければいけないと思いました」
山崎「道警は、最初にヤジを飛ばした男性だけでなく、『増税反対』とヤジを飛ばした女性や、別の場所では年金問題を批判するプラカードを掲げた女性も排除していました。最初の女性が自分で撮った動画では、警察官はジンジャーエールを買ってやるから黙れ、というふうな言い方を女性にしていました。警察官が、言論の自由をジンジャーエールの値段ぐらいにしか思っていなかったとすれば、それは違うだろうという思いがありました。また、札幌駅前では大勢の自民党支持者らが『安倍政権を支持します』と書かれたプラカードを掲げていましたが、それに対しては何も言わずに、政権を批判するプラカードは下ろすよう干渉しました。掲げている内容で排除する、しないを決めるのはおかしいと思いました」
――この問題を題材にドキュメンタリーを作ろうと思った動機は。
山崎「当日は、我々の取材チームが排除の場面も撮っていましたが、あくまでも街頭演説の一シーンとの位置づけで放送しました。詳細はのちの朝日新聞の報道で知りました。まず当時の映像を集めることから始め、弁護士や専門家に問題点を聞き、ニュースとして放送しました。7月18日が最初の放送で、その後計30回、道警ヤジ排除に焦点を当てたニュースを報じました。取材の過程で素材が多く集まり、全国向けにドキュメンタリー番組を作ることにしました」
――番組放送後の反響はどうでしたか。
山崎「大きかったですね。放送は最初、関東地区のローカル番組の枠での放送でしたが、それを見た人がツイッターで投稿してくれました。番組をユーチューブにアップしたところ、反響がすごかったです。『よくぞ放送してくれた』など、番組に賛意を寄せる手紙や電話もたくさんいただきました。少し経ってから否定的な意見も寄せられるようになりましたが、多くは罵詈(ばり)雑言の類いでした」
受賞理由に共通した ある危機感
――SNSでは、「政治家にヤジを飛ばすのは失礼、聞いている人にも迷惑」「ヤジは犯罪」などの意見もありました。
山崎「ヤジを飛ばすぐらいの…