受け継がれる「キャプテンノート」 悩んだ時、頼りに

甲斐江里子
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 大教大池田(大阪府池田市)の主将小野翔平君(3年)はうまくいかないとき、主将として悩んだとき、家の机の引き出しから茶色の小さなノートを取り出す。歴代の主将たちが次の代へのメッセージをつづった「キャプテンノート」だ。

 昨夏、3年生が府大会の試合で負けた翌日、前主将の大門(だいもん)楽士(がくと)さん(18)から校舎内で声をかけられた。「自分たちが引退して部員は少なくなるけど頑張れよ」。小野君の四つ上の主将が書き始めたノートを手渡された。ノートの存在はそれまで知らなかった。

 小野君が通った中学校の野球部には上級生の部員がいなかった。高校では先輩が手本を見せながら野球を教えてくれた。「先輩との毎日が楽しかった。こういうところで野球がしたかったんだと思えた」。しかし、昨春、新型コロナウイルスの感染拡大で学校は臨時休校になった。

 前主将の大門さんも野球ができないつらさを感じていた。同級生の一人はオンラインでミーティングをしたとき、「試合もしたいけど、それよりもみんなで練習したい」と話した。大門さんは部員不足や練習内容などで苦労したことはたくさんあった。でもそれ以上にコロナ禍で仲間と野球をする楽しさに改めて気づかされた。

 引退したら、主将は小野君に引き継ぐと決めていた。「技術面だけでなく、朝練も誰よりも早く来ていた。次の代になってもチームを任せられると思っていた」と大門さん。新型コロナで翻弄(ほんろう)される中、次の主将、小野君へのメッセージをしたためようとキャプテンノートを開いた。主将として大変だったこと、うれしかったことは身にしみていた。あとは言葉に記すだけ。すらすらと筆が進んだ。

 一方、小野君は主将という立場には苦い経験がある。中学の時も野球部で主将をしていた。小野君は練習が厳しくても試合で勝ちたいと思っていた。しかし、チームとその気持ちを共有できず、一人だけで突っ走っていた。ボール拾いやグラウンド整備を真剣にやらない後輩に腹を立て、「早くやれ、ちゃんとやれ」と声を荒らげた。結局、最後までチームがまとまらなかった。

 入学した大教大池田も決して強いチームではない。小野君は大門さんに推される形で主将になったものの、「今も、強く言ったらうまくいかないんじゃないかと悩む」と明かす。そんなときは、大門さんから受け取ったノートを読み込む。

 最初の方で全く結果出なくても焦らなくていいから。自分よりチームを優先すること。小野は1年の時からそういうことはできてたから大丈夫やと思う。

 先輩の言葉を読んで「元気になったり、逆に先輩たちはこんなに頑張っていたのかと分かって、やっぱり自分は主将に向いていないのかと思ったり」。

 いっぱい考えて、悩んだら良い。悩んで、苦しんで、最後の大会でコールド負けしてもこのチームのキャプテンしててよかったって思える1年間にしてください。

 「先輩はきっと『高校野球をやっててよかった』と思えたから、この言葉を書いてくれた」と小野君は考える。主将としてのあり方はいまも模索中だ。でも、この言葉を見て今日も頑張ろうと思う。

 引退まで残りあと少し。技術面も野球への向き合い方も、後輩に残せるものは残していきたい。伝えきれない後悔や思いはキャプテンノートに書きとめ、次の世代に渡すつもりだ。(甲斐江里子)

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