「勝ちスコアを書きたいな」 マネジャーの姉のため力投
(14日 高校野球岩手大会 遠野6-5千厩)
今大会初の延長戦。
十回表、マウンドに立つ千厩の佐々木悠大投手(1年)は額の汗を拭った。4安打を浴びて4点を奪われ、なおも2死二塁のピンチが続いている。
主将の佐藤真捕手(2年)が駆け寄ってきた。
「大丈夫だ。次の回に絶対に逆転するから、思い切って投げろ」
頭をなでられると、緊張がほぐれた。ファウルで4球粘られたが、フライに打ち取った。
最初は三塁手で出ていたが、四回表にエースの千葉大飛君(2年)が顔面に打球を受け、眼鏡が壊れた。だが、替えの眼鏡がないという。
「自分が投げるかもしれない」
予想通り、緊急登板。マウンドに立つと、さっきまで高鳴っていた胸が静まっていく。背中を押してくれる存在がいたからだ。
ベンチに入っている記録員の佐々木心海(みなみ)マネジャー(3年)は2歳上の姉。「次、レフトに行ってるよー!」。試合中ずっと響く声で、打者がこの日打った方向を教えてくれていた。
そんな姉によく言われることがあった。
「3年間公式戦で一勝もしていないから、勝ちスコアを書きたいな」
その願いをかなえたい――。準備は万全でなかったが、変化球を織り交ぜ、緩急をつけた投球で、九回表まで追加点を1点にとどめ、延長戦に持ち込んだ。
4点を追う十回裏は、2死から3点を返したあと、さらに一、三塁と、長打が出れば逆転の場面まで迫ったが、力尽きた。
西日が差す球場で試合終了を告げるサイレンを聞いた佐々木君は、こらえきれず涙した。姉の目もうるんでいた。
球場を出て、姉に言われた。「次はエースになって勝ってね。期待しているから」。少し笑いながら、うなずいた。(西晃奈)