アーティストとして生きた 自費出版の選択 京アニ事件

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森嶋俊晴
【動画】大村勇貴さんゆかりの田んぼアート=森嶋俊晴撮影
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 「どっくんどっくん」。心臓の鼓動を思わせるタイトルの大型絵本が今年5月に発売された。作者は大村勇貴さん。2年前の7月、京都市伏見区京都アニメーション第1スタジオで起きた放火殺人事件で亡くなった。当時社会人1年目で、23歳だった。

 大村さんの大学卒業制作作品を、両親が今年、自費出版した。「あの事件の被害者という先入観なしで作品を見てほしい」。そんな願いが込められている。

擬態語、擬音語だけで描くいのち

 水平線が広がる暗い水面に泡が「ぷくぷく」と膨らむ。「どっくんどっくん」はそんな場面から始まる。

 あとがきにはこうある。「最初の生き物が誕生してから38億年分のいのちの繫(つな)がりが詰まっています」

 「ごぽごぽ」「ゆらっ」「ぬぼー」。陸に上がった生物たち、空に向かって伸びる樹木。「ガアアアアア」「キィエエエエ」。ユーモラスな表情の恐竜たちの叫び声。

 どのページも見開きで、鮮やかな色づかいと意表を突く構図に引き込まれる。文字は擬音語と擬態語だけだ。その理由について、あとがきはこう記している。

 「子どもや大人、いろんな国の人にこの本の『いのち』を感じてもらうため」

 「ぼくの名前は大村勇貴です」で始まるこのあとがきは、大村さんの大学の後輩と大村さんの両親が「勇貴だったらなんて言うだろう」と考えて書いたという。

 大村さんは静岡県菊川市出身で、常葉大造形学部(静岡市)に進んだ。

 卒業制作として手がけた原作の「どっくんどっくん」は、すべての絵をびょうぶのように一つにつなげ、見せ方にも工夫を凝らしている。学部の卒業制作展では優秀賞に輝いた。

 卒業から約4カ月後の2019年7月18日。大村さんは就職先の京都アニメーションで亡くなった。

自費出版までの経緯をたどると、ご両親のさまざまな思いが浮かび上がります

■「絵本にしたい」母の願い…

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