老舗銭湯「継がせてほしい」 病室の祖父に告げた孫夫婦

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久保田一道
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 群馬県桐生市で80年以上続く銭湯「上(うえ)の湯」が7月7日、リニューアルして営業を再開した。2月に先代が倒れ、一時は廃業がちらついていた。「じいちゃんの銭湯が好きだから」。大ピンチに、孫夫婦が立ち上がった。

 上の湯は1984年、先代の笹倉幸一さんが親族から経営を継ぎ、妻の文子さん(77)と二人三脚で切り盛りしてきた。はっきりした時期は不明だが、過去に経営していた親族の話から、戦前には創業していたという。

 その幸一さんが今年2月13日、自宅前で転倒し、背中や足を骨折。急きょ休業することになった。

 文子さんは、幸一さんが退院すれば再開するつもりでいた。だが、入院中に熱が下がらなくなり、誤嚥性(ごえんせい)肺炎と診断された。

 春が来ても病状は回復しなかった。孫娘の美紅(みく)さん(26)の車で病院に赴くと、医師から「元の仕事には戻れない」と見通しを伝えられた。2人の子どもにも後を継いでもらうことは望めない。ひそかに銭湯をたたむことを決意した。

 病院から帰途の車内。美紅さんの口から思いがけない言葉がついて出た。「私たちがやってもいいかな」

 美紅さんは小中学校の放課後、毎日のように上の湯で夜まで過ごした。幼い頃から祖父母と過ごす時間が長く、銭湯は自分の家のような存在だった。

 美紅さん以上に思い入れが強かったのが、地元の信用金庫に勤めていた時の同僚で、交際していた津久井篤さん(29)だった。地域の人が集まり、何げない会話を楽しむ場所がどんどん好きになった。「いつか、自分たちに継がせてほしいと思っていた」

 5月、個室に移った幸一さんへの面会が許されると、2人も病室へ駆けつけた。呼吸器につながれた幸一さんに決意を伝えると、黙ってうなずいていたという。5月16日、幸一さんは78歳で亡くなった。

結婚、そして手探りの再開へ 常連客たちは

 篤さんと美紅さんは5月5日…

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