「咲かせた花を、先輩にも」 悔し涙が教えてくれたこと

寺島笑花
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 《33期生の分もとかそういう話しではなくて、34期生らしく頑張ってほしい》

 5月20日、西京(山口市)の野球部員と指導者ら70人でつくるグループラインに去年の主将・山縣大晟(やまがたたいせい)(18)からメッセージが届いた。前副主将・高杉颯(はやて)(19)もこう送った。

 《去年の自粛期間と比べ、自分に打ち勝っていますか? 僕は去年の自分に勝ちさらなる成長を目指し練習しています》

届いたメッセージ

 第102回全国高校野球選手権大会と、代表を決める地方大会の中止が発表された1年前のあの日。監督の浜田洋平(42)は会見の中継を見るよう部員に伝えていた。それが終わると「歩みを止めるな」とグループラインにメッセージを送った。「高校野球は終わりじゃない」。そう伝えたかった。

 発表翌日、部員たちは公園にいた。球を転がし合って捕る練習をしたり、硬球の代わりにバドミントンの羽根を打ったり。2年生だった杉山駿には、先輩たちは野球がうまくなるため、限られた中でできることを探しているように見えた。誰も甲子園の話はしなかった。

 県高野連が独自に大会を開くことを決めると、「優勝」を目標に掲げた。悔しいと思えるのは優勝した1校だけだ――。浜田の言葉を胸に挑んだが、3回戦で敗退した。

 新チームが発足すると、従来のように練習できるようになった。練習前の黙想で杉山はいつも、独自大会後のバスの中で先輩が悔し泣きする姿を思い出した。当たり前に試合ができ、練習できることに慣れてきた時、一球の大切さを思い出させてくれるのは先輩だ。

「野球に飢えている」

 練習での声、一球への気迫。新3年生たちは「野球に飢えている」と、浜田には映った。チーム内でも本気の勝負が生まれ、急激に伸びる選手が出てきた。

 迎えた今年の春の山口県大会。昨年は中止となり、大会が行われることのありがたみをかみしめた。選抜に出場した下関国際に準決勝で敗れたが、4強入りを果たした。

 しかし、その後の練習試合でミスを連発。バントを捕りきれず、投手にも四死球が出る。途中まで勝っていながらサヨナラ負けを喫したことも。緊張が緩み、練習も締まらなかった。

 先輩からのメッセージはそんな時に届いた。前主将の山縣は「自分たちの分までとは思っていない。一緒にやってきた後輩たちの成長を見られることこそ、一番うれしい」。去年のことを「周囲には見せなかったけど、どうしようもない気持ちは今も覚えている」と振り返る前副主将の高杉は「昨年の悔しさを共有した後輩に改めて気持ちを一つにしてほしかった」。

 メッセージが届いた翌日、杉山はグラウンドでチームメートと向き合っていた。「伸び悩んでる場合じゃない」「やらんといけんな」「どうにか流れを変えよう」。そんな声が出た。

 「自分に何が足りないのか改めて考えた」と杉山。苦手意識があった速いゴロの捕球は、とにかく足を動かすことを意識して繰り返し、ティーバッティングは鏡を見ながら一球一球取り組んだ。あれから2カ月。今もなお、練習後のグラウンドでは多くの選手がバットを振っている。

 グラウンドのバックネット裏の部屋には「花」という文字が飾られている。主将になった杉山が書いたものだ。「周囲の応援や自分たちの努力、色々な養分を吸収して咲かせた花を、先輩にも見せてあげたい」(敬称略)(寺島笑花)