亡き母が託した弁当作り 野球部の仲間に心も満たされた

黒田陸離
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(17日、高校野球神奈川大会 藤沢西1-4湘南工大付)

 今大会、初の先発登板だった。「行ってくるよ」。朝、藤沢西のエース、岩崎壮多投手(3年)は線香を上げ、手を合わせた。

 高校1年の10月のことだった。「ちょっと検査で入院してくるね」。そう言った3カ月後、母・由紀子さんは息を引き取った。44歳だった。腹膜偽粘液腫の再発。発症率は百万人に1人ともいわれる、希少がんの一種だった。

 英会話や水泳の講師として働きながら、少年野球のときから送迎やスコアラーを務めてくれた。「なんでそんなにストライクが入らないの?」。的を射た指摘に腹が立つこともあった。でも、それが励みだった。

 1年の終わりに部活に戻ったが、練習に身が入らない。「もう見せられないのに意味あるのかな」。そんな左腕を支えたのも、亡き母だった。

 部活に戻る前、父の順一さん、専門学校生の兄・赳実さんと食事を準備することで精いっぱいだった。生活の負担を心配した母は入院前、野球部同期の保護者に弁当づくりを託していた。学校がある日は毎日交代で、2リットルほどの保存容器いっぱいの弁当を作ってくれ、同級生が持ってきてくれた。母や仲間たちに応えたい――。もう一度投げる理由が見つかった。

 すべての思いをぶつけたマウンド。三回までに4点を失ったが、そこから踏ん張った。終盤は足に力が入らなくなったが、気力で投げきった。「3年間やり抜いたよ」。スタンドの前で泣き崩れる岩崎投手を、球場中からの拍手が包んだ。雲一つない青空だった。(黒田陸離)