京アニ社長「思い変わらない」 初めて「謝罪」の言葉も

白見はる菜、華野優気
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 京都アニメーション第1スタジオ(京都市伏見区)の放火殺人事件から2年がたった18日、京アニの八田英明社長(71)が追悼式後に記者会見した。「2年たとうと、思いはいささかも変わらない」と述べ、亡くなった36人を哀悼した。

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会見する京都アニメーションの八田英明社長=2021年7月18日午後、京都市下京区、筋野健太撮影

 八田社長の会見は事件1年の昨年7月18日以来。今年の追悼式での弔辞では「(社員らを)守れなかったことを本当に申し訳なく思っています。心から謝罪いたします」との言葉を初めて盛り込んだ。

 八田氏は会見で、2年を経てようやく謝罪の言葉が口にできたと心境を明かし、「経営者として非常に申し訳ないという思い。遺族、命を落とされたスタッフに大変申し訳なく思っている」と述べた。

 会社の現状に関しては、36人ものスタッフが犠牲になり、「会社としての創造力はかなり激減した」と打撃の大きさを打ち明けた。

 一方、「私たちは、作品をつくれる環境と気持ちの回復を(会社の)再建としている。1ミリずつ前向きに進んでいる」と説明した。

 京アニは今年で創業40年を迎え、「がんばってスタッフがしっかり明日を迎えられるようにしていきたい」と決意を述べた。

 八田氏は新作を手がける制作力や技術の回復には時間を要するとしつつ、過去に基礎的につくった作品をもとにしながら「新しい企画づくりも進めていく」と語った。

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会見する京都アニメーションの八田英明社長=2021年7月18日午後、京都市下京区、筋野健太撮影

 京都アニメーションの八田英明社長の会見での主な一問一答

 ――事件から2年。社長の思いや受け止めを

 2年がたとうと、思いはいささかも変わりない。本当に日々みんながいてくれたらなとか、そういう思い。2年がたとうと、3年がたとうと、思いは変わらないと思います

 ――(会社の)再建状況を。それをどう受け止めているか

 気持ちの回復という意味では、少しずつ、日々の作品を作っていく中で、ちょっとずつですけども、1ミリずつですけども、前向きに進んでいます

 ――青葉(真司)被告への思いがあれば

 公正に裁かれるものと思っていますので、当方から何も申し上げることはありません

 ――被害者への思いを

 36人の方が亡くなってしまったのは、耐えがたい。なんとか家族の皆様にとっても、少しでも気持ちが楽になるように会社としても一生懸命に考えている段階。なかなか一朝一夕ではいかないので、日々努力しております

 ――2年がたった。仕事場や社員の雰囲気で変化は。どのような様子か

 当社も作品を作っていかないと、会社としての継続的な営業ができないので、少しずつでも仕事に一生懸命になることによって、心を寄り添えたと言いますか。そこに新入社員の方とかが入ってきていますので、新しい力を少しずつ得ながら、ともに学んでいる、新しい作品を作っているという状況です

 ――入社1年目のスタッフの気持ちの文章をもらった。事件後に入社した社員はどんな思いで仕事に励んでいるか

 (今年)4月1日に入社しましても、アニメーションを作るのは、専門的な技能を必要としますので、6月ぐらいまではわりかし練習。そう言う意味では先輩が一生懸命「こういうところを先輩は変えていたよ」と伝えることによって少しずつ、プロとはなんぞや、物作りとはなんぞや、ということを今やっている最中。みんな前向きに一生懸命やろうとしていますので、今まで過去に入社した人と同じですけども、明日を作ってくれるものと信じています

 ――「小林さんちのメイドラゴンS」など、事件後に制作された作品があるが、出来や視聴者の反応はどう評価しているか

 昨年に公開された劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデンは21億円以上の興行収入というところ。会社の運営の力になっているし、今やっているメイドラゴンSも明るいコメントをいただいた。一生懸命作った作品は会社を支えている

 ――被害に遭って復職した人もいる

 今現在3名ほどの方がリハビリとかをされていますが、そのほかの人は元気に頑張っています

 ――事件を受けて、ファンから様々な激励があった。支えてくれるファンへの思いは

 本当にありがたい。ファンあって物作りができていますので、多くのパッケージを購入いただいたり、メッセージをいただいたりすることには大変感謝しています

 ――会社として遺族や負傷した社員にどういった点を重視してサポートを続けてきたか

 産業医の先生とか、いろいろな形でケアしていますし、通常よりも機会を多くして不安とか精神的なストレスは相談できるような態勢を作っています

 ――先日テレビ放映が開始された「小林さんちのメイドラゴンS」は亡くなった武本康弘さんが「シリーズ監督」に。亡くなった36人はいろいろな作品に携わったと思うが、エンドロールも含めて名前を残していきたいという気持ちはあるか

 メイドラゴンは武本康弘監督として作り上げ、2期についてもほぼ構成もシナリオも、武本くんの腕で完成していた。シリーズ監督はクレジットとして当然のことだと思うし、基礎的ベースを作ったスタッフのお名前っていうのは、作品的にはこれからも使わせていただきたい

 ――亡くなられた方の技術を継承して今後どのような作品作りをしていきたいとお考えでしょうか

 あれだけの人が亡くなって会社としての物の創造力という部分は、かなり激減している。過去にベースをつくった作品を大事にして、当面はそういう作品をしながら新しい企画づくりも当然に進めて参ります

 ――追悼式で謝罪の言葉を述べた。昨年のメッセージには入っていないが、今年盛り込まれた理由を

 僕の心の中ではやっぱり結果として36名の方が亡くなってしまったというのは重たくは受け止めているんですね。どういう方法があったかどうかとかはこれからいろんな形の中で検討していき、対策を考えていくべきものだろうと思うんですけど、ああいう中で亡くなってしまったことは経営者として非常に申し訳ないという思いでは常にいます。ただ、事件が起きたときにそのことはまだ自分の頭の中では考えられずに、今ようやく2年という月日の中に、ご家族のみなさんにとって大事な娘さん息子さんを会社に応募してきていただいて採用して、そして長年ともにやってきた人たちがああいう中で亡くなってしまったことに対してはご遺族に対しても大変申し訳なく思いますし、ましてや一瞬のことで命を落とされたスタッフに対しては、大変申し訳なく思っているという状況です

 ――スタッフや社員の働きぶりをみて、被害に遭われた方、亡くなられた方の技術や思いが伝わっているなという、具体的なエピソードや出来事があれば

 被害に遭われた方が、少しずつ元気になってきて、今はまだ労災の途中でもありますが、会社に来ることに少し慣れたいということで、電車を1週間に1回とか、正確な数字は存じ上げませんけど、そうやって来られてる方もいらっしゃる。そういう人たちをみて自分たちも頑張ろうって前向きに考えているスタッフもいますし、作品的に「Free!」とか忙しい時期になってますので、作品をつくりながら、一つずつ元の感覚を戻すというんでしょうか、アニメーターを作り出すっていう、そこに集中し始めてるかなっていうことは感じています。だからちょっと前より作業時間もちょっと出てきていますので、そういう意味では作品を自分たちの手で作っていこうという思いを感じます

――第1スタジオの活用や慰霊碑の設置など、現時点で見通しがあれば

 正直、今のところ何のコメントもない。これからどうするかはまた真剣に考えていく時期がくると思いますけど、ご存じのように、いまの新型コロナという状況ではなかなか打ち合わせをしようにもなかなかその機会をつくるのが難しい状況でもあります

 ――今月放映が始まった「小林さんちのメイドラゴンS」で、武本さんのお名前がシリーズ監督に加えて絵コンテにもクレジットされてると思うんですけど、事件前に描かれていた絵コンテが残っていたということなんでしょうか

 そうです。武本くんっていうのは結構そういう企画っていうことを考えるのが大変才能がありまして、やっぱり自分でコンテを選考してつくってやっていくというのはやってましたので、そういう作品です

 ――メイドラゴンSの武本さんが描かれた絵コンテというのは、第1スタジオの残っていたサーバーにあったのか。それとも別の場所に保管されていたんでしょうか。

 たぶん紙媒体で残ってたんじゃないかなと思います。別のところで倉庫もありますし、第1スタジオだけでなく第2スタジオもありますので

 ――今日事件から2年を迎えましてこれから年数を重ねていく中で、事件の風化が懸念されると思います。それについて社長のお考えやお気持ちは

 月日の経過とともに感情が薄れるとか、忘れることは決してないと思うんですね。これからどうやって忘れないためにしていくのかということは一生懸命考えていきますけど、今いる社員は忘れることができないっていう状況で、毎年追悼は執り行わせていただく予定はしております

 ――「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」やメイドラゴンSについて事件後スタッフの皆さんどのような気持ちで作品をつくってきたかを教えてください

 とりあえず一生懸命やってました。そうしてその作品のできばえについてどう思われるかは、ごらんになった方、テレビを見られた方がどう思われたかが一番大事かと思うんですけど、クリエーターとしては一生懸命こたえようと、それを劇場公開としてこられたお客様がどうお思いになるかはまた大事なことだと思っていますので、それをまたお聞きすることだろうと思います

 ――本日の追悼式の前後でご遺族と社長がなにか言葉を交わされたりはあったのでしょうか。もしありましたらどのような内容をお話しされたのか教えてください

 みなさんに、ありがとうございますということはお話し申し上げましたけども、時間もありませんので、みなさん次々にバスに乗られたり来られたりしますから、個別的にお話し申し上げるのはほとんどなかったと思います

 ――追悼式の祭壇に飾られたお花は、昨年はユリやシラギクだったと思うんですが、今年ヒマワリですとかコチョウランですとかカーネーションが盛り込まれていた。込められた意味があれば

 去年は真っ白な状況のキクの花っていう形でさせていただいたんですね。2年目については、明日に向けてっていう願いを込めている状況で、去年よりも少し明るくしていきたいというのはありました。そういう思いでつくっておりましたので、それぞれのみなさまがどうお思いになったかはそれぞれのお心だと思いますけど、去年よりもう少し前を向こう、1ミリでも前に向こうっていうことをお伝えできればなと希望しました(白見はる菜、華野優気)

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放火殺人事件から2年がたった京都アニメーション第1スタジオの跡地=2021年7月18日午前9時5分、京都市伏見区、朝日新聞社ヘリから、小杉豊和撮影
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京都アニメーション第1スタジオ跡地の式典会場に入る遺族ら=2021年7月18日午前、京都市伏見区、筋野健太撮影
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京都アニメーション第1スタジオ跡地の式典会場=2021年7月18日午前、京都市伏見区、筋野健太撮影
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事件2日前、JR宇治駅近くの防犯カメラに映った青葉真司被告=2019年7月16日午後2時ごろ、京都府宇治市、住民提供
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京都府警に逮捕され、ストレッチャーに乗せられて伏見署に入る青葉真司被告=2020年5月27日午前8時9分、京都市伏見区、白井伸洋撮影