「軟弱」の声、はねのけた 14ひきで描く幸せの原風景

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聞き手・松本紗知
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 自然の中で力を合わせて生きる、ねずみの大家族の暮らしを描いた「14ひきのシリーズ」。世界で1500万部を超えるロングセラーですが、当初は出版社の編集会議を通らず、自然と家族というテーマが「軟弱だ」と言われたそうです。14ひきの物語が生まれた背景を、作者のいわむらかずおさんに聞きました。

「14ひきのひっこし」(童心社、1983年、累計104万部)

豊かな自然のなかでくらす14ひきのねずみの家族。新しいうちを探して、森の奥へ、さあしゅっぱつ。川をわたり、不安な一夜をすごし、やっと見つけたすてきな根っこ。みんなで力をあわせて、うちをつくります。14ひきのシリーズは全12作。

 豊かな自然と、何もない中から作り上げていく家族の暮らし。「14ひきのシリーズ」は、自分の子どものころの原風景がもとになっています。

8畳一間にぎゅうぎゅう詰めで

 戦争末期は秋田県の祖父母のもとへ兄と疎開し、戦後、東京へ戻ってからは、8畳一間の借家で、両親ときょうだい6人が暮らしました。食べるものも乏しく、大変な暮らしでしたが、豊かな自然の中でたっぷり遊べたことは、数少ない幸せだったと思います。

 借家では、家族8人がぎゅうぎゅう詰めで寝ていました。庭に石を並べてかまどを作って、そこでご飯を炊いたり煮物をしたり、ドラム缶でお風呂を作ったり。少しでも暮らしをよくしようと、両親が工夫して奮闘している姿が、私の中に強く残っていました。

 絵本作家デビューした1970年に、当時住んでいた東京の杉並から多摩丘陵の団地に引っ越したんです。周りには広い雑木林があって、そこを1人で歩いていると、その先に何か不思議な空間がある気がして、胸がときめく。落ち葉の上に寝転がっていると、母親のぬくもりに包まれているような、安らいだ気持ちになる。

 しばらくして、「これは自分にとっての原風景なんだな」と気がつきました。

 貧しい中から立ち上がっていく家族の暮らしと、自然の中で遊んだ体験。多摩丘陵で雑木林と再会し、それが自分の原風景だと気づいたことで、「雑木林の中で暮らす家族の絵本を描きたい」と思ったんですね。

「大事な作品になるに違いない」

 描きたいと思ったら止まらなくなるわけですが、「これは自分にとって、とても大事な作品になるに違いない」と確信しました。東京にいるんじゃなくて、どこか田舎に移り住んで、主人公たちと同じ暮らしをしながら描こうと考えた。子どもを育てるにも自然豊かな環境の方がいいだろうと、かみさんとも話し合って、75年に栃木県益子町の、雑木林の中に移りました。

 このことはすごく大きかった…

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