「複数の警察官が負傷した! 複数の警察官が負傷した!」「西側正面に50人(のデモ隊)が集結、壁の方に向かってきている」「今すぐに応援を! 複数の警察官が負傷。今すぐに!」「今すぐに応援を! デモ隊が柵を倒し始めた。我々に鉄パイプを投げている」「いまここで爆発が起きた。彼らは爆発物を投げ始めている」――。
今年1月6日、数千人のトランプ氏の支持者たちが暴徒と化して米議会議事堂を襲撃した歴史的事件の背景に迫る連載です。暴徒たちが警官隊と衝突し、議事堂で略奪行為を働く中、直前の集会で支持者をあおったトランプ氏は何をしていたのでしょうか。
2021年1月6日午後1時過ぎ、トランプ支持者たちと議事堂を守る警官隊との間で本格的な衝突が始まると、現場の警察官たちの間では無線を通じて緊迫したやりとりが繰り広げられた。
「不正選挙」に憤る圧倒的な数の支持者たちを前に、不意を突かれた格好の少数の警官隊は無力だった。午後2時過ぎには、暴徒化した支持者たちはバリケードを突破。議事堂の進入禁止エリアに入ると、今度は建物のガラスをたたき割って、建物内へと続々と乱入を始めた。
暴徒たちが警官隊と激しく衝突して議事堂内へと乱入していく様子は、テレビ各局が生中継していた。そんなさなかの午後2時24分、トランプが自身のツイッターに投稿した内容は次のようなものだった。
「マイク・ペンス(副大統領)は我々の国と憲法を守るために、なすべきことをなす勇気をもっていなかった。USAは真実を要求している!」
午後1時から開始された上下両院合同会議の直前、議長役を務めるペンスは、自身には選挙結果をくつがえす「権限はない」と明記した文書を連邦議員に配布。トランプの求める選挙結果くつがえしの要求を拒否する姿勢を明らかにした。
トランプのツイートはこのペンスの態度に強い不満を示すものだった。議事堂に集結した支持者たちからは「ペンスをつるせ!」の大合唱が起きた。
バリケードを乗り越えようとした支持者が警察に射殺
事態は刻一刻と深刻の度合いを増した。
議事堂内に乱入した暴徒たちは建物内で略奪行為をしながら歩き回り、「裏切り者」のペンスやトランプが目の敵とする下院議長のナンシー・ペロシを捜し回った。暴徒たちは建物内でも警官隊とたびたび衝突を起こした。午後2時45分までには、熱心なトランプ支持者で米空軍退役軍人、アシュリー・バビットが下院議長室に近づくためにバリケードを乗り越えようとしたところ、警察官に射殺された。
この間、トランプは「平和的にやってください!」「連邦議会議事堂にいるみなさんは引き続き平和的にお願いしたい」とツイート。だが、議事堂から立ち去るように呼びかけることは一切なかった。
トランプ周辺からも、トランプに事態を沈静化させるように行動を促す声が強まった。
記事後半では、ホワイトハウスで事態の推移を見ていたトランプ氏の思惑に焦点を当てます。共和党の下院議員らはトランプ氏に電話をかけ、暴動を止めるように説得しますが、トランプ氏の返答はどのようなものだったのでしょうか。
元大統領首席補佐官代行のミ…