野球部とソフト部の二刀流 女子選手に大きな相乗効果が
ソフトボールと野球の二刀流で甲子園をめざす選手たちがいる。
24日、兵庫県丹波市で開幕し、決勝が同県西宮市の阪神甲子園球場で開催される第25回全国高校女子硬式野球選手権大会。
8回目の出場となる日南学園(宮崎)の野球部はソフトボール部としても活動をしている。
「カキーン」「バシッ」。7月中旬、宮崎県日南市のグラウンドには2種類の打球音が響いた。
甲高い音は硬球を、低い音はソフトボールを打った時のものだ。2カ所ある打撃練習用のネットには、硬球用、ソフトボール用の打撃マシンが並ぶ。選手はその日の自分の課題に合わせて、片方だけを打ったり、両方を打ったりする。
守備練習の光景も珍しい。内外野の守備位置に就いた選手たちはソフトボールで一通り、ノックを受ける。
その後、ソフトボール用から硬式用のグラブに換え、再び守備位置に。今度は打球速度の速い硬球を追った。
きっかけは部員不足
「中途半端と言われることもあるが、両方の競技に触れることで選手の可能性が広がっていくと思っています」
就任20年目の鎌田邦利監督(64)はそう話す。
監督によると、ソフトボール部の創部は1980年ごろ。これまで全国高校総体(インターハイ)に22回出場し、全国選抜大会でも準優勝したことがある実力校だ。
ただ、20年ほど前から地域の競技人口が減り、部員不足に悩むようになった。一方で、野球をする女子は増えつつあった。
「野球部があれば入るのに……」。そんな中学生の声を耳にした鎌田監督が少しずつ野球部をつくる準備を進め、2012年に正式に活動を始めた。
その年の新入部員は14人で、そのうち野球経験者は3人。翌年以降は新入生のうち約半数は野球経験者が占めるようになった。現部員は22人だ。
双方を掛け持ちさせてみると、相乗効果が大きかったという。
たとえば、塁間が野球より短く、わずかな打球処理のミスが出塁につながるソフトボールの守備で鍛えられたことで、野球の守備の正確性やスピードも向上する。
野球の投手の多様な変化球に慣れることで、比較的種類が少ないソフトボールの変化球にも対応しやすくなる。
女子野球部はまだ数が少なく練習試合を組むことが難しいが、ソフトボールの試合でも実戦感覚を養える、といった具合だ。
主将の田中来宙(くるみ)(3年)は「硬球より重いソフトボールを打ってきたことで野球の打撃力も上がってきたと思う」と話す。
広がる進路選択
進路の選択肢も広がった。
投手の田中は大学でソフトボールを続けることにした。もともとは小学2年で野球を始め、中高一貫の日南学園中に入学後、高校のソフトボール部に参加するようになった。
当初は「野球よりボールが大きい」と困惑したが、次第にソフトボールに夢中になり、野球の投手からソフトボールの投手に転向した。
鎌田監督は「未経験だった方の競技に熱中し、大学や社会人でプレーを続ける生徒も珍しくない」と言う。
初の甲子園を目指して
今夏、選手たちには「甲子園」という新たな目標ができた。
全国高校女子選手権への初出場は12年。ソフトボールの高校総体と日程が重なった19年とコロナ禍で大会が中止となった20年を除いた過去7回の挑戦で初戦突破は2回。
全国で勝つのは容易ではないが、田中は「3年生には最初で最後のチャンス。絶対に出たい」ときっぱり。
鎌田監督は日南の二塁手として臨んだ75年の夏の宮崎大会準決勝で、後にプロ野球広島で活躍する北別府学さん(64)を擁する都城農を破るなどして、夏の全国選手権に初出場した。
チームは甲子園で2勝を挙げ、「赤ヘル旋風」とも呼ばれた。
「女子の指導者から甲子園を目指せるのは夢みたいな話。あの聖地にこの子たちも立たせてあげたい」
初戦は25日。一昨年王者の作新学院(栃木)に挑む。(高橋健人)
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<野球とソフトボールの主な違い>
【ボールの大きさ】 硬球は周囲22.9~23.5センチ、重さ141.7~148.8グラム。ソフトボールは周囲30.2~30.8センチ、重さ177.5~198.8グラム
【バット】 野球が長さ106.7センチ以下、重さ900グラム以上(アマチュアの金属製バットの場合)などに対し、ソフトボールは長さ86.4センチ以内、重さ1077グラム以内
【イニング】 プロ野球や男子の高校野球は9イニング制。女子野球やソフトボールは7イニング制
【投手と本塁の距離】 野球は18.44メートル、ソフトボール女子は13.11メートル
【塁間】 野球は27・431メートル、ソフトボールは18・29メートル。
◇ソフトボールでは走者は投手の手から球が離れるまで塁を離れられない
◇ソフトボールの投球フォームはアンダースローに近い形
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