記者コラム「多事奏論」
5年前に大ヒットした庵野秀明総監督の映画「シン・ゴジラ」が描く首相官邸のシーンには驚くほどリアリティーがあった。
ゴジラが突然東京に上陸し、みるみる被害が広がる。そこで右往左往する政権の様子が描かれるのだが、官邸内のセットは本物と見まがうほどだった。撮影スタッフは事前に官邸や省庁を念入りに取材。いざという時どんな組織が立ち上がるか、大臣はどこに待機するか、会議中の伝達方法は、といった細部まで調べ上げたそうだ。
そこまでリアルな演出にこだわったのはゴジラという壮大な虚構を成立させるためには、それ以外を極力現実に即して表現する必要があったからだという。
狙いは当たった。無為無策、根拠なき楽観、後手後手、朝令暮改、場当たり的、責任回避……。観客はいつしか、ゴジラという危機が迫っているのにいつまでも煮え切らない劇中の官邸幹部たちにいらだつ。
制作時期からみてゴジラが暗示した「危機」とは東日本大震災や福島第一原発事故だったのだろうが、今ならコロナ危機の風刺劇として見てもまったく違和感がない。
もしかすると誰が官邸の主でも危機管理の出来はいつだってその程度のものなのか。およそ政府というものはいざという時に役立たぬものだと割り切るべきなのか。
官邸事務方トップである内閣官房副長官を7年余り務め、7内閣に仕えた石原信雄さん(94)を訪ね、意見を聞いた。
――菅政権は「ワクチン敗戦」だと批判されています。今の官邸にどんな評価を?
「接種がなぜここまで遅れた…