完成まで数カ月 柔道選手を奮い立たせる4分の映像の力

柔道

波戸健一
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 やる気をかき立てるメッセージ。心が躍るBGM。勝利の喜びを思い出す試合の映像。

 柔道の日本代表が選手の能力を引き出すため、ひそかに、そして本気で力を入れてきたのが「モチベーションビデオ」だ。

 2012年ロンドン五輪後に就任した井上康生・男子監督の発案がきっかけだ。

 海外勢の映像分析などを担う全日本柔道連盟科学研究部(科研)が中心となり、13年以降の世界選手権と五輪では毎回、代表選手一人ひとりに合わせたビデオを作っている。

 試合や合宿で撮影した膨大な量の映像を素材に使う。そこに、選手の家族からのメッセージ動画や文字テロップを組み合わせ、選手の好みや映像のテーマに合った音楽をつける。

 1本4分ほどのビデオに構想から完成まで数カ月を要する。東京五輪代表の14人分を用意するのは骨の折れる作業だ。

 科研部員で男子チーム担当の鈴木利一さん(33)は「それぞれの選手のストーリーを意識して作っている」と言う。

 選手の個性や発する言葉、長所や課題も重要な要素だ。鈴木さん自身も選手と日常的に接しているが、コーチやトレーナーからも情報を集めながら構想を練る。

 選手によってビデオを渡すタイミングも違う。試合前日の計量後や試合当日の朝、大会の1週間前を希望する選手もいる。

 リオデジャネイロ五輪女子78キロ超級銅メダルの山部佳苗さん(30)は、試合前夜に見たビデオに「奮い立った」と振り返る。二人三脚で指導を受けた薪谷翠コーチからの「よくここまできた。全力を出そう」というメッセージに背中を押されたという。

 東京五輪に向けた編集作業は佳境だ。井上監督は「工夫を重ねて年々質の高いものができてきている。選手の大きな力になっていると思う」と語る。

 睡眠時間を削りながらパソコンに向かう鈴木さんは言う。「選手は目の前の4分間の試合に人生をかけている。僕も選手と一緒に戦っている気持ち。4分間の映像に全力を尽くしています」(波戸健一)

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