専業主婦時代を経て歌人たちのトップに 栗木京子さん

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聞き手・佐々波幸子
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 〈観覧車回れよ回れ想ひ出は君には一日(ひとひ)我には一生(ひとよ)〉

 中学の国語の教科書に載り、広く愛唱されるこの短歌の作者は、現代歌人協会の理事長を務める栗木京子さん(66)だ。歌人たちの権利を守る職能団体のトップに女性として初めて就いて1年4カ月。この間、尽力してきたことや、歌人としてのこれまでの歩みについて聞いた。

 くりき・きょうこ 1954年、名古屋市生まれ。現代歌人協会理事長。歌誌「塔」選者。読売歌壇選者、西日本新聞短歌欄選者。2003年の「夏のうしろ」で読売文学賞若山牧水賞。06年の「けむり水晶」で迢空賞、芸術選奨文部科学大臣賞。13年の「水仙の章」で斎藤茂吉短歌文学賞、前川佐美雄賞。18年の「ランプの精」で毎日芸術賞。

 ――昨年春、新型コロナウイルスの感染が急速に広がるなかでの理事長就任でした

 予定していた全国短歌大会の授賞式や公開講座が中止に追い込まれるなか、現代歌人協会として、二つの大きな取り組みがありました。

 一つは、日本学術会議が推薦した会員候補6人が任命されなかった問題で、昨年10月に「日本学術会議の新会員任命拒否に反対する声明」を、日本歌人クラブ会長の藤原龍一郎さんと連名で出したことです。

 声明にも書きましたが、短歌の世界では、多くの歌人たちが所属していた大日本歌人協会が1940(昭和15)年、国家に協力的でない会員がいると非難されて解散に追い込まれる事件がありました。ここから歯車が狂って、歌人たちが戦争協力の歌、翼賛的な短歌を強いられる、という流れが生まれたんです。断ると、結社誌を作るための紙を回してもらえない、といった恐れもあったようです。「政府に逆らう学者や研究者は排除すべきだ」という短絡的な言説から、「政府に逆らう歌人ら表現者は排除すべきだ」という風潮までは、わずかな距離しかありません。他人事として見ていると、すぐに文芸の世界に食い込んできますからね。

 声明を出してから9カ月ほど経ちますが、いまだに菅政権は拒否した理由を明確にしておらず、見直しにも応じていません。注視していかなくてはと思っています。

 もう一つは、今年5月に「二○二○年 コロナ禍歌集」を出したことです。約900人の会員のうち571人が、新型コロナウイルスに翻弄(ほんろう)された一年を詠み、1首ずつ収めました。歌を通して、この一年をたどることができます。

 〈ウイルスのはびこる船を下りるともこの地球より下りやうもなし 沢口芙美〉

 〈休校が長引くほどに疲弊する母もスーパーマーケットの棚も 樋口智子〉

 〈「東京の人は来ないで」コロナ禍に云はれフクシマよみがへりくる 遠藤たか子〉

 こういう未曽有の苦難があったとき、短歌が力を発揮することがあると思うんです。祈りにも通じますし、励ましにも通じます。

 たとえば、ベテランの奥村晃作さんはこんな歌を詠みました。〈ぬばたまの夜が明けぬれば今日もまたウイズコロナの工夫の暮し〉。こうした前向きな歌を読むと、嘆いてばかりもいられないと思いますね。

 コロナ禍を終息させるのは、最終的には科学や医学の力かもしれませんが、それまでの日常を支えていくのは、私たちの体力であり、気力。こうした難局を乗り切る底力を、短歌の言葉が培うことができるのではないかと考えています。

 ――昨年から今年にかけて、日本文芸家協会の理事長に林真理子さん、日本ペンクラブ会長に桐野夏生さんが就き、それぞれ女性初の就任として話題になりました。現代歌人協会も1956年の創立以来、女性のトップは初めてのことでした

 私でいいんだろうかと、先輩…

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