刻まれなかった1本のヤマユリ 事件で姉失った男性の思い

土屋香乃子 林知聡
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 2016年7月、入所者19人が殺害された障害者施設「津久井やまゆり園」(相模原市緑区)で、犠牲者のうち7人の名前を刻んだ慰霊碑が完成した。26日で事件から5年。大部分が建て替えられた園舎で20日、追悼式が営まれ、遺族らが慰霊碑に献花した。

 慰霊碑は「鎮魂のモニュメント」と名付けられ、神奈川県が建立を提案。当時、犠牲者名は遺族の希望で匿名とされたが、県によると、「希望者は名前を(碑に)入れても良いのではないか」という声が遺族の一部から上がり、裁判で母親が明らかにした美帆さん(当時19歳)を含む7人の名前が刻まれた。犠牲者を表すヤマユリの花もあしらわれ、遺族の同意が得られた18本が彫り込まれている。

 事件は16年7月26日未明に発生。殺人などの罪に問われた元職員、植松聖(さとし)死刑囚(31)の死刑が、昨年3月に確定している。(土屋香乃子)

 犠牲者19人のうち、1人の遺族が慰霊碑にヤマユリを刻むのを断った。姉(当時60)を亡くした男性(62)。残酷なこの事件と、美しいヤマユリの花が自分の中で結びつかない。だから、県に「姉の分を刻まないで」と申し出た。姉の名前も刻まなかった。

 裁判では殺人などの罪に問われた元職員の植松聖(さとし)死刑囚(31)に対し、死刑を求めた。しかし、徐々に考えは変わった。なぜ植松死刑囚は障害者への差別的な発言を繰り返したのか。なぜ事件を止められなかったのか……。

 事件から5年たっても、そんな思いが消えないまま、この日、追悼式に参列した。慰霊碑建立は男性にとって区切りではないというが、こうも語った。「作っただけではなく、広めていくのが遺族としての役目、義務だと思う」(林知聡)