がんと診断される人の4割以上は75歳以上で、高齢者の病気ともいえます。年をとればとるほど、ほかの病気を抱えたり、家族がいなかったりと個人差が大きく、治療方針を決めることが難しくなります。「高齢だから」とひとくくりにするのではなく、個人の多様性に合わせた取り組みが始まっています。(編集委員・辻外記子)
肺がん、80代男性の思い
島根県の80代男性は2019年、息切れがひどくなって島根大学病院を受診し、肺がんと診断された。
「過去3カ月間で、食欲不振などのため食事量が減ったか」「自力で歩けるか」「毎日の生活に満足しているか」
75歳以上のがん患者を対象に、呼吸器・化学療法内科が17年に始めた高齢者機能評価(GA)で、20ほどの質問に答えた。
GAでは、がんとは直接関係がない身体機能や栄養状態、頼れる家族の有無といった質問への答えを分析。年齢相応の状態か、治療の際に気をつけるべき点はどこかを見極める。
男性には糖尿病があったが、認知機能に問題はなく、年齢相応の元気があった。妻と2人暮らしで、自立した生活ができていた。
がんは手術はできないが根治が望める状態で、平均余命は5年以上。積極的な治療をしなければ、短くなると推測された。薬を自分で管理してのめないことのほかには、大きな問題はなかった。
三つの選択肢
呼吸器・化学療法内科の津端(つばた)由佳里講師は、三つの選択を示し、治療に伴う副作用についても説明した。①抗がん剤の後、免疫の力を利用してがんを攻撃する「免疫チェックポイント阻害剤」を使う標準的な治療②放射線治療だけ③抗がん剤だけ――。
男性の意思は、はっきりしていて、「積極的な治療を受けたい」と望んだ。薬剤師の指導を受けて①を始めた。がんは画像検査で映らないほどになり、経過を観察している。
■問題が見えてくる…