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第4波「野戦病院のよう」 やらせたいが賛成できぬ五輪

有料記事新型コロナウイルス

長富由希子 堀之内健史 佐藤常敬
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 新型コロナウイルスの「第5波」が迫る中、東京五輪の開会式が23日に開かれる。医療崩壊を経て開催に反対する思い、閉塞(へいそく)した中で五輪に光を求めたい気持ち。「第4波」の最前線で失われる命に直面した人たちは、コロナ禍での祭典を複雑な思いで迎える。

 「第4波」では全国で6千人を超える死者が出た。

 「五輪をやるなら対策をしっかりして、兄のような死者は出さないで欲しい」。40代の兄がコロナに感染し亡くなった東京都内の会社員男性(38)は言う。

兄を亡くした遺族、医療崩壊に直面した看護師、聖火ランナーを務めた医師。こうした人が五輪をどんな思いで迎えるのか、割り切れぬ胸中を明かしました。

 第4波の最中の5月初旬だった。「お兄ちゃんがコロナに感染して入院したけれど、容体が悪い」。母親から電話がかかってきた。

 「重症化しても、兄は若い。まあ大丈夫だろう」。そう思っていた。だがその夜、病院から母親に連絡が来た。「エクモ(体外式膜型人工肺)を装着した。本当に危ない状態」

 翌日の午前、母と2人で病院に行った。兄がいるICUには家族も入れない。「すでに血圧の維持が出来ない」。医師に言われた。病院に着いてから約1時間後、兄は亡くなった。筋力トレーニングが趣味で、強いイメージしかなかったのに。「こんなので逝くんだ。ウソだろっと。今でも実感がない」

 自身もサッカーをしてきたという男性は、五輪を目指して頑張ってきた選手の気持ちもわかるという。一方で、感染拡大は怖い。「兄があっという間に亡くなり、若くても、コロナの死はすぐ横にいるレベルだと実感した。感染者だけは増やさないで欲しい」長富由希子

 第4波で関西は医療崩壊に見舞われた。

 「東京の1日の感染者が1千人を超えた。五輪を喜んでは見ていられない。中止すべきだと思う」。神戸市訪問看護ステーションを経営する龍田章一さん(35)は話す。

 神戸市からの依頼で3~6月、約140人の高齢者や障害のあるコロナ患者宅を計約1500回訪問した。入院が必要な状態まで悪化しながら、病床が空いていなかったため入院できなかった患者が主だった。

 感染対策介護ヘルパーが訪問できず、ごみが散乱する中で「苦しい。痛い」とうめく患者たち。「まるで野戦病院のような家が多くあった」。最終的に入院できた人も含め、25人が亡くなった。亡くなった若い女性の母親が、救急車に同乗できずに泣き崩れた姿は今も目に浮かぶ。

自身も車いす「大会、やらせてあげたい。でも」

 16歳の時に遭った交通事故で両足の神経がまひし、車いすで生活する。10年ほど前にやっていた車いすバスケは自分にとって大切なもので、パラリンピック代表チームには知人もいる。「やらせてあげたい」と思うし、東京大会は自分自身楽しみにしていた。

 だが、医療崩壊での患者の悲惨な状況を見てきた身としては、感染者は1人も増やしてはいけないと思う。「助けたくても助けられず、厳しい自宅療養で多くの人が犠牲になった。遺族のことを考えると、感染を増やすリスクのある大会開催はあり得ない」

 第4波でコロナ病床を17床運用してきた大阪暁明館病院(大阪市此花区)の西岡崇浩事務長(48)は、五輪を「否定も肯定もできない」と言う。

 第4波では病床逼迫(ひっぱ…

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