コロナ禍の休業手当「バイトにも」 決着めざし提訴

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編集委員・沢路毅彦 山本恭介
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 神奈川県内の飲食店で働くアルバイトの30代女性が21日、コロナ禍で店が休みになった間の休業手当などを運営会社に求め、横浜地裁に提訴した。緊急事態宣言で休んだ事業者がシフト労働者に手当を払う法的義務があるかは論争になってきた。法廷での決着をめざす動きとして注目を集めている。

コロナ禍は「不可抗力」か

 訴えられたのは「まいどおおきに食堂」「つるまる」「かっぽうぎ」などの飲食店を展開するフジオフードグループ本社(大阪市)の子会社。訴状などによると、原告の女性は2018年6月、有期雇用で入社。週20時間未満のシフト制で、神奈川県の商業施設内の飲食店で働いていた。

 この商業施設は、コロナの感染拡大と緊急事態宣言の影響で、20年4月4、5日と同8日~5月25日に休館し、店も休業した。

 会社は4月の女性のシフトが決まっていた分について休業補償を払ったが、他の期間は補償しなかった。正社員の店長には全期間、補償したという。女性はシフトが未確定だった期間も勤務実績に応じて手当が払われるべきだと主張。休業手当など約181万円の支払いを求めている。

 最大の争点は、コロナ禍を受けて会社が実施した休業が、会社の責任といえるかどうかだ。

 民法や労働基準法は、会社側に責任があれば休業手当を払うよう義務づける。一般的には大地震などの「不可抗力」があれば責任がないと解釈されている。

 コロナ禍が不可抗力かは意見が分かれている。

 厚生労働省はコロナ禍の対策として、休業手当を払って雇用を維持する企業を支援する「雇用調整助成金(雇調金)」の特例を広げ、活用を促してきた。

 だが、コロナ禍が不可抗力かの見解はあいまいだ。同省ホームページの「Q&A」は「一律に支払い義務がなくなるわけではない」。①事業の外部で発生した事故で②経営者として最大の注意をしても避けることができない時は不可抗力と説明。他の仕事をやってもらうなどの努力をしているかどうかで判断されるとしている。

 パート労働者に休業手当を払わない企業の中には「シフトで働く労働者は就業時間が直前まで決まらないので休業手当は必要ない」という主張もある。

 だが21日の原告側の記者会見で、原告代理人の川口智也弁護士は「会社は大量に非正規を雇って収益を上げてきた。雇調金も受給できるので、会社は責任を負うべきだ」と指摘した。

会社側「訴えの内容確認できていない」

 フジオフードグループ本社は取材に「訴えの内容が確認できておらずコメントできない」としている。

民法536条2項と労働基準法26条

民法536条2項によると、使用者(債権者)に過失などの責任があって労働者が働けなかったときは、労働者(債務者)は賃金を受け取る権利を失わない。働く意思のある社員の解雇が無効になった場合が典型例だ。一方、労働基準法26条は、使用者に責任がある理由で休業した場合に平均賃金の6割以上の休業手当を支払うよう義務づけている。企業の責任の範囲は、民法よりも労働基準法の方が広く定めていると理解されている。

「同一労働同一賃金」も争点

 今回の裁判では、安倍政権が「働き方改革」の一つとして打ち出した「同一労働同一賃金」も争点になっている。

 2013年に施行された改正労働契約法は、正社員と非正社員の間に不合理な格差をもうけることを禁じた。この規定は、20年4月からパートタイム・有期雇用労働法に移っている。

 不合理かどうかは、社員が会社から受け取る手当ごとに判断される。①仕事内容や責任の程度②異動など人事活用の仕組み③その他の事情の3要素が考慮される。

 訴状によると、原告が勤務していた店では、正社員である店長の賃金が全額補償される一方、女性には一部しか支払われなかった。店長は本社とのやりとりや採用、シフト作成などの仕事をしていたが、それ以外は原告と仕事内容が変わらず、責任はほぼ同じだったとして、格差は不合理だと主張している。

 パートタイム・有期雇用労働法では、非正社員が待遇格差の理由を説明するように求めた時に会社が応じるよう義務づける規定が新たにできた。原告側は、この規定にも会社が違反したと主張している。

■「非正規も生活のために働く…

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