小中は不登校、高校で開花 「水につけといたら大きくなる」

競泳

浅田朋範
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 「なんで休んだん?」。そのひとことが嫌だった。

 東京五輪の競泳男子200メートル背泳ぎに出場する砂間敬太さん(26)=イトマン東進=には不登校の時期があった。友だちから休んだ理由を尋ねられるのがおっくうだった。

 奈良県大和郡山市の出身で、小4から中3まで学校にほとんど通えていない。だが、寮生活を過ごした高校時代に世界が開けた。

 中3のとき、親から「家を出て行きなさい」と言われた。学校を休みながらも地元のスイミングスクールで続けていた水泳もやめ、自衛隊に入ろうかと考え始めていた。すると当時天理高校教諭で水泳部監督だった山本良介さん(65)から「ウチに来ないか」と誘われた。練習を見学したうえで、天理に進学することにした。

監督が見抜いた「持って生まれた水への感覚」

 山本さんは砂間さんの小学生時代を知っていた。泳ぐ姿に「持って生まれた水に対する感覚がある。マリモみたいに、水につけといたら大きくなる」と感じた。高校では練習であれこれ言わずに見守った。「高校は通過点。絶対大きく羽ばたいてくれる。待ってたらええねん」。そんな山本さんのスタンスが、砂間さんには合っていた。

 砂間さんが「第二の母親」と慕うのが、高校で3年間担任だった吉田美和さん(58)。寮に入っているとはいえ、吉田さんは彼が登校してくるかどうか、正直不安だった。

 「敬太は来てるかな?」。朝の参拝で生徒が並ぶ列の後ろから彼の姿を探した。個人面談を毎日する気持ちで1日1回は声をかけ、コミュニケーションを深めた。「何でも相談できるし、聞いてくれた。家族みたいな感じです」と砂間さん。水泳の遠征や合宿以外での欠席はほぼなかった。

 高2のころ、水泳を人生の中心にすると決めた。「高校からタイムが伸びてきて、勉強はできないし水泳でメシを食っていくしかないかなと。水泳と向き合って仕事として頑張ろうと思いました」と砂間さん。

 仲間にも恵まれた。高3の4月。日本選手権で思うような結果が出ず、失意のどん底にいた。そんな彼をあたたかく迎えたのは天理高校のクラスメートたちだ。「俺たちのエースで賞」と題した手作りの賞状を用意してくれていた。砂間さんは「涙が出そうになりました」。また頑張ろうと決意した。

 高校の卒業式で、砂間さんは全国大会優勝者らに対する特別表彰を受けた。校長先生が「オリンピックに行ってください」と声をかけると、砂間さんは「オリンピック出ます」。あの日の言葉が現実になった。「これ以上ないプレゼントをいただきました。笑顔で元気に泳いでくれたら」。吉田さんが笑顔で言った。

 200メートル背泳ぎの予選は28日、準決勝は29日、決勝は30日にある。中学生のころは想像もできなかった舞台で、砂間さんが勝負をかける。(浅田朋範)