開会式担当解任が示す日本の大衆娯楽の「ガラパゴス化」
東京オリンピック(五輪)の開閉会式のディレクター小林賢太郎氏が22日、解任された。今回の問題をどうみるか、哲学者で国内外の歴史認識問題に詳しい高橋哲哉・東京大学名誉教授、編著に「ヒトラーの呪縛」がある佐藤卓己・京都大学大学院教授、ナチス・ドイツの戦争犯罪と向き合う現代ドイツ思想が専門の三島憲一・大阪大学名誉教授の3人に聞いた。(聞き手・大内悟史、山本悠理)
人権意識の低さ露呈
《哲学者で日本や欧米、東アジアの歴史認識問題に詳しい高橋哲哉・東京大学名誉教授の話》
開会式は、オリンピックの理念や開催国・開催都市のメッセージを具体的にイメージさせ、広く世界に伝える場であるはずだが、そうした場に似つかわしくない、いまの日本社会全体の人権意識の低さが露呈した。仲間うちで面白がっているものが一歩外に出ると通用しない、という日本社会のゆがんだ部分が、海外から注目が集まるこの機会に一気に噴出した形だと受け止めている。
第2次世界大戦中に起きたユダヤ人の大量虐殺はホロコーストと呼ばれ、国際社会で使われる「ジェノサイド」や「人道に対する罪」という概念が戦後発展していくきっかけになった悲劇だ。ナチスドイツがユダヤ人に対する差別意識にもとづき、民族の「絶滅」を狙って非常に多くの人命を計画的かつ大量に奪った重大な犯罪であり、欧米ではもちろん、日本でも笑いの材料にするのは許されない。小林氏の謝罪コメントにあるような「不快な思い」をさせたとか「愚かな言葉選び」をしてしまった、というような水準の話ではない。
南アフリカの人種隔離政策(アパルトヘイト)や東アジアの歴史認識問題の検証が進むなど、現代の国際社会では特に1990年代以降、東西冷戦の制約が取り払われたことで「歴史問題のグローバル化」が起きた。人種差別や民族差別が許されないのはすでに国際的合意と言ってよいが、日本ではそうした問題への認識が甘い。日本の歴史教育が現代史をおろそかにして、悲劇を二度と繰り返さないという観点から歴史的事実をきちんと伝えるということをしていないのも、背景にある問題の一つだろう。(聞き手・大内悟史)
記事の後半では、現代ドイツ思想が専門の三島憲一・大阪大学名誉教授にも話を聞いています。
五輪演出との「ミスマッチ」
《編著に「ヒトラーの呪縛」がある佐藤卓己・京都大学大学院教授(メディア史、大衆文化論)の話》
戦後日本のサブカル世界にお…