赤ちゃん殺した容疑の母親、僕が無罪にした理由

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 有罪か、無罪か。刑務所に入るのか、猶予されるのか。裁判官は法廷で、人ひとりの一生を左右する判断を日々迫られます。元裁判官で法政大学法科大学院教授の水野智幸さん(59)は現役時代、8件の無罪を出しました。初めて書いた無罪判決は、産み落とした赤ちゃんを殺した罪に問われた、若い母親の事件。なぜ無罪にしたのか。そこには、裁判官人生に大きな影響を与えた「伝説の裁判官」の存在がありました。

 水野さんの最初の任地は埼玉の浦和地裁で、刑事裁判の担当だった。殺人事件など大きな事件の裁判は、「合議」といって3人の裁判官が担当する。生涯にわたり薫陶を受けることになる裁判官、木谷明さん(83)と出会ったのは、同じ「合議体」の裁判長としてだった。

 「木谷さんは普段は優しいけれど、仕事には厳格な人でした」。水野さんは振り返る。

 「合議」の裁判で判決文を書くのは、一番年次が若く、裁判官席の左端に座る「左陪席」、すなわち水野さんの役目だった。「じゃあ書いてみて」と一度の話し合いで左陪席に任せる裁判長が多いなか、木谷さんはいつも、何度も話し合いの場を設けた。骨子を書き上げる締め切りも、通常は決めないのに決めて厳守させる。「ここまでしなくていいのでは」。最初は戸惑った。

 任官して2、3カ月が経ったころのことだ。ある強姦(ごうかん)事件(現在は強制性交等罪)の裁判があった。被告は「同意の上だった」と主張したが、状況などからみてそうは思えなかった。証拠調べが終わり、裁判官室で「まあ有罪ですよね」と軽い気持ちで言ったところ、木谷さんが言った。

 「一度、被告人の言い分をとことん信じて、証拠を検討してみよう」

 明らかに有罪と思えるような事件でふいに言われた言葉。とても意外だったが、何だか見方が変わった。被告の言うように、女性が被告に合意していたということはないのか。あらためて調べ直した。結局有罪を言い渡したが、裁判官のあり方を教わった。

作り上げられた調書

 同じ年、若い母親が職場の休…

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