絶望の「間合い」向き合った渡名喜 24センチ差の王者を破った先に

波戸健一
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 宿敵は倒した。

 「金メダルを取るには倒さないといけない相手」

 東京オリンピック柔道女子48キロ級の渡名喜風南が言い続けてきたダリア・ビロディドウクライナ)対策は準決勝で見事に実った。

 渡名喜自身は2017年の世界王者。だが、18、19年は決勝でビロディドに連敗した。相手は172センチで身長差は24センチ。「自分の間合いでは技が届かない」と手足の長い相手に絶望の言葉を漏らしたこともある。

 ところが、この日、渡名喜は左の釣り手を必死に突っ張って相手の好きにはさせなかった。ビロディドの息が乱れた延長、相手の不完全な払い巻き込みを潰し、一気に抑え込んで決着をつけた。

 以前の渡名喜ならば、相手の組み手に合わせてしまったかもしれない。「組みぎわの意識を変えた。我慢して我慢して練習でやり続けた」と所属先の園田隆二監督。稽古では5階級も重い相手と乱取りを重ねた。

 さらには、19年の冬は単身でモンゴルで修行に。足場の悪い山道を一緒に走り、モンゴル相撲のトレーニングで体幹を鍛えている姿を見て刺激を受けた。元世界女王のムンフバト・ウランツェツェグから「肉を食べないと強くなれない」と助言されると、嫌いだった牛肉も食べるようになった。

 ビロディドという壁があったから試行錯誤し、力もつけ、強くなった。しかし、その先にまた壁があった。残り19秒で技ありを取られた決勝を振り返り、「もっと我慢強く相手を見ていたら、違った展開になった。しっかり負けを認めていきたい」と涙をふいた。

 壁が彼女を強くした。だから、きっと新たな壁がさらに彼女を強くする。(波戸健一)