世界遺産の足元に「きれいな」外来植物 駆除は至難の業

奄美・沖縄

外尾誠
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 世界自然遺産に加わった「奄美大島徳之島、沖縄島北部及び西表島」では、強い繁殖力で在来の草花を駆逐する「侵略的外来種」と呼ばれる外国産植物の侵入が課題となっている。人の生活圏と森が近いという地域特性もあり、様々な種が広範囲で確認され、一部は遺産に登録された地域にもはびこる。貴重な生態系を壊す恐れがあるが、駆除や侵入防止は至難の業だ。

 ハート形の葉をつけた植物が畑を覆う。やんばるの森(沖縄本島北部)のふもとにある大宜味(おおぎみ)村の田嘉里(たかざと)集落。「みるみる広がった」。7月14日、案内してくれた区長の玉城薫さん(73)が嘆いた。

 今、最も恐れられる植物ツルヒヨドリ。南北アメリカ熱帯地域原産で、つるは1日約10センチも伸びて葉を広げ、綿毛を持つ種は風で運ばれる。「1分で1マイル広がる雑草」の異名を持ち、在来の植物も農作物も枯らしてしまう。国内では1984年に沖縄本島中部のうるま市で見つかり、北部にも拡大。西表島(沖縄県)や奄美大島(鹿児島県)でも近年、確認された。

 環境省は2016年、栽培や移動などを罰則付きで禁じる「特定外来生物」に指定。遺産の森への侵入を阻止しようと、やんばる周辺では地元の協力を得ながら駆除を本格化させた。だが、その活動に参加する玉城さんは「少しでも根を残すと、また生えてくる。いたちごっこ」。新型コロナ禍で予定した駆除活動の中止も続いているという。

「守るには本来の姿を学ぶしかない」

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 「きれいでしょう。でも外来種。こんな重要な場所まで入ってしまった」

 今年5月、奄美大島の遺産の森に入った自然写真家の常田守さん(68)が紫の花を指さした。南米原産のムラサキカッコウアザミ。近くには北米産のセイタカアワダチソウの姿も。ともに観賞用などとして日本に持ち込まれたという。

 奄美の森は集落のそばに広がり、林道も多く、人が出入りしやすい。長く自然保護活動を続ける常田さんは「希少植物も身近だけど、外来種も入りやすいので、影響が心配だ」。

 その一つが、インドなどが原産のハナシュクシャ。白い花が美しく、庭に咲かせる民家もあるが、島の固有種絶滅危惧種のアマミクサアジサイの自生地にも広がり、覆い尽くそうとしている。

 南米北部産のアメリカハマグルマもやっかいだ。島中部のマングローブ林のそばでは、在来のキダチハマグルマを囲むように生い茂り、駆逐や交雑が懸念される。緑化用に1970年代に南西諸島に植えられ、徳之島(鹿児島県)や西表島、やんばるにも広がる。

 集落の河川では、南米産のオオフサモが水面を覆いつくす場所も。淡水魚の飼育用の水草が捨てられて増えたとみられるが、洪水時の水の流れを妨げる恐れも指摘されている。

 そして、島の美しい海岸を一変させたのが、豪州産のモクマオウ。護岸工事などで伐採されたアダンなどの在来種に代わり、鹿児島県が50年代から防風や防潮、防砂のために植えた。砂地でも成長が早い特性を見込んだが、在来種を追いやり、波打ち際まで増殖。希少種の渡り鳥コアジサシの繁殖地も奪った。

 鹿児島県が発表した侵略的外来種の番付表で、モクマオウは「小結」。問題との認識はあるが、県は「ほかに(防風林などに)適した木がない」と、在来種と一緒に植える「混植」に切り替えつつ植栽を続けた。同様の問題を抱える小笠原諸島東京都)では2011年の遺産登録前から国などが、抜き取りや薬剤注入などでモクマオウを計画的に減らす努力を続けており、対応に差がみられる。

 「植物界のマングース」。常田さんはこの木をそう表現する。ハブ駆除を担う期待の星として人が放ちながら、島の希少動物を襲ったマングースの姿と重なるからだ。他の外来植物も同じで、生態系への影響を考慮せず、安易に島に放してきた過去のツケが回ってきているという。

 鹿児島県は2019年、住民に身近で、駆除の効果が出やすい外来種の駆除マニュアルを作成・公開した。住民による駆除の「参考にしてもらいたい」(県自然保護課)とするが、根や種を残さないように気を配り、何度も繰り返して再生を防ぐ必要があり、根絶のハードルは高い。いまだに手つかずの種も多い。

 常田さんは侵入防止の重要性を指摘し、こう話す。「自然を知らないと対応を誤り、新たな外来種が増えかねない。守るには本来の姿を学ぶしかない」(外尾誠)

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