投げて、投げて、投げまくる 「グレコの伝道師」文田健一郎の美学

レスリング

金子智彦
【動画】「反り投げ」の技を解説するレスリングの文田健一郎選手=遠藤啓生撮影
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 投げて、投げて、投げまくる。

 東京オリンピック(五輪)レスリング男子グレコローマンスタイル60キロ級の文田(ふみた)健一郎(ミキハウス)のスタイルだ。

 そして、金メダルへの鍵を、文田は「自分のスタイルを貫くこと」と言う。グレコの魅力をみんなに知って欲しい――。その振る舞いには、伝道師としての思いがある。

 グレコは下半身への攻撃ができない。そのため、押し合いになってしまい、地味な試合展開になりがち。そのための「投げ」だ。

 「『グレコの魅力は投げだよ』って子どもたちに見せて、少しでも普及につなげられたら」と文田は話す。

 文田自身の得意技も「反り投げ」だ。

 「狙おうとして技はかけていない。体がスッて(相手の懐に)入って、『いける』と思った瞬間には、もう相手が飛んでいる」

 繰り出したときの景色をそう表現する。

 正対した相手の背中に両腕を回して固定し、ブリッジの体勢で後方に投げる。文田は背中から腰にかけての筋肉と関節の柔らかさが突出していて、ブリッジで反り返る角度が深い。「投げる」より「落とす」といった方が的確だ。

 この技には「戦略的にも感情的にもすごく大切にしたい」という思いがある。その原点には、父敏郎さん(59)がいる。

 地元の山梨・韮崎工高レスリング部監督を務める敏郎さんの下、文田はマットで飛んだり跳ねたりして柔軟性を養った。

 自身もグレコ選手だった敏郎さんは、2004年アテネ五輪の投げ技を集めたDVDを見せた。そして、文田は「やりたい」とまんまと乗ってきたという。

 中学2年の後半ごろから本格的にグレコの道へ。同じ動作を何回も繰り返した。高校の時には練習終わりに突然バタンと倒れるぐらいに熱中した。

 その成果はすぐに出る。高校時代はグレコの全国選手権で3年連続優勝、日体大4年だった17年世界選手権では日本勢34年ぶりの金メダルを獲得した。19年世界選手権で2年ぶり2度目の世界一に輝き、五輪代表の座をつかんだ。

 敏郎さんは「グレコは昔は筋肉マン同士の押しくらまんじゅうみたいで、見ていて面白くないときがあった。素人目では『何をやってんだろ』と。投げの大技が出れば、選手も見ている人も面白い」。その考えを文田も受け継ぐ。

 反り投げは当然相手に警戒される。文田は首投げや巻き投げなど他の技で崩すことも視野に入れるが、「やっぱり反り投げにこだわりたい」。

 大技が決まれば、たとえ無観客でも、テレビなどで多くの視線が集まる。さらに注目を集めるためには金メダルが必要だ。

 目指すは頂点。1984年ロサンゼルス五輪の宮原厚次(52キロ級)以来、日本勢37年ぶりの快挙となる。(金子智彦)