第2回核兵器廃絶への信念 ゴルバチョフ氏、広島に残した言葉

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編集委員・副島英樹
【動画】被爆76年 芳名録物語 ゴルバチョフ元ソ連大統領編
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 被爆地広島・長崎には、政治や文化、スポーツなどの第一線で活躍する人々も数多く訪れました。核兵器廃絶を訴え続ける「原点」とも言える地で、何を考え、どんな言葉を残したのか。広島の平和記念資料館と長崎の長崎原爆資料館の「芳名録」に記されたメッセージを手がかりにたどりたいと思います。

《レーガンとは単なる会話ではなく、「核戦争は許されない。そこに勝者はない」との共同声明を出した。核兵器から解放されなければならないとの意見も述べた。それは今も私の祈りだ》(2019年12月のインタビューより)

核大国の首脳として初の長崎訪問

 世界の9割以上の核兵器を保有してきた核大国の米国とソ連・ロシア。その歴代最高指導者のうち、現職中に被爆地を訪れたのは、ソ連のミハイル・ゴルバチョフ大統領とバラク・オバマ米大統領だけである。2人はしがらみを乗り越え、被爆地訪問を実現させた。ともに、「核兵器なき世界」をめざす強い信念があったからこそだった。

 ちょうど30年前の1991年4月19日、核超大国の首脳として初めて、ソ連のゴルバチョフ大統領は長崎を訪れた。沿道で約2万人の市民が出迎える中、午後7時半すぎ、すっかり日が暮れた平和公園に到着した。祈念像前で腰をかがめ、白い花かごを捧げた。じっと像を見上げた後、黙禱(もくとう)した。

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長崎市にある悟真寺のロシア人墓地で献花するミハイル・ゴルバチョフ大統領(中央、当時)左隣は中山太郎外相(当時)とライサ夫人=1991年4月19日

 そして、「プレジデント・ゴルバチョフ」と呼びかけた被爆者の山口仙二さんと握手した。当時、2人はともに60歳。山口さんは大統領の手を握りながら、こう話しかけた。

 《核戦争阻止のために、核兵器廃絶のために、いっそうのご努力を》

 通訳がロシア語に訳すと、大統領はうなずいた。

 当時、長崎原爆被災者協議会の会長だった山口さんは、14歳で被爆し、顔と全身にやけどを負ってケロイドに苦しんだ。1982年にニューヨークで開かれた第2回国連軍縮特別総会でNGOを代表して演説。「私の顔や手をよく見て下さい」と語りかけ、「ノーモア・ヒロシマ、ノーモア・ナガサキ、ノーモア・ウォー、ノーモア・ヒバクシャ」と訴えたことで知られる。2013年に亡くなるまで、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)の代表委員などを歴任した。

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長崎の被爆者、故・山口仙二さんと握手するミハイル・ゴルバチョフ大統領(当時)=1991年4月19日、長崎市松山町の平和公園

 山口さんとゴルバチョフ大統領との対面を、当時の朝日新聞はこう記した。

 《生涯をかけての反核の訴えが、初めて核超大国の首脳に直接届いた》

 この時、平和公園ゴルバチョフ氏は、記者団の質問にこう答えている。

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故・山口仙二さんは勤労学徒として長崎兵器製作所で働いていて被爆、強烈な熱線で顔の右半分と右上半身にケロイドを焼き付けられた=1956年8月、富重安雄撮影

 《私がここを訪れなければ、チェルノブイリで苦しい思いをしたソ連の人たちや、日本で被爆した人たちも納得してくれなかったでしょう》

 この訪問時、ちょうど長崎市長選の真っ最中だった。ソ連大統領の長崎訪問は選挙に影響を与えるなどとして、日本政府は難色を示した。長崎市にあるロシア人墓地への訪問と抱き合わせの形になったが、長崎入りが実現したのは大統領本人の強い意志があったからだといえる。この訪問から約3カ月後の91年7月、ゴルバチョフ大統領は米国のブッシュ(父)大統領と戦略兵器削減条約(START)に署名し、射程が長い核兵器も大幅に削減する流れをつくった。

 ところで、なせ長崎でゴルバチョフ大統領は、1986年4月に旧ソ連チェルノブイリ原発4号炉で起きた世界最悪の原発事故に言及したのか。それは後に詳しく述べるとして、この発言は、筆者が2019年12月から20年3月にかけてゴルバチョフ氏に対面と書面でインタビューした内容と合致する。1991年4月に長崎を、大統領退任後の92年4月に広島を訪れたゴルバチョフ氏に、被爆地の思い出について尋ねた。答えはこうだった。

記事後半では、ゴルバチョフ大統領が長崎でチェルノブイリ原発事故(1986年)に言及した背景や「核の時代」に刻んだ足跡、90歳を迎えてもなお揺るぎない「核兵器なき世界」への思いに迫ります。

 《91年の日本公式訪問で…

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