黒い雨訴訟、首相が上告見送り表明「被爆者手帳を交付」

戸田和敬
[PR]

 広島への原爆投下後、放射性物質を含む「黒い雨」を浴びた住民ら84人全員を被爆者と認め、被爆者健康手帳の交付を命じた広島高裁判決について、菅義偉首相は26日、上告を断念する方針を表明した。国の援護対象区域から外れていても被爆者と認めた司法判断が、政治決着により、確定する見通しとなった。

 一審判決は、黒い雨に遭い、がんなどの疾病にかかれば被爆者にあたるとしたが、控訴審判決は疾病にかかわらず、幅広く被爆者と認める判断を示した。広島市などが推定する降雨地域は援護対象区域の6倍にあたり、この範囲で浴びた人は今も約1万3千人いるとされる。新たな申請者も予想され、国は援護行政の見直しを迫られそうだ。

 菅首相は「被爆者援護法に基づいて、その理念に立ち返る中で救済をすべきだと考え、上告はしないこととした」と説明。直ちに原告らに手帳を交付すると述べた。また「同じような事情の方々について救済すべく、これから検討したい」とし、国と広島県、市が連携して救済策を検討する考えを示した。「政府として受け入れ難い部分もあるので、談話という形で整理をしていきたい」とも述べた。

 県と市は、手帳の交付事務を国から任されているため、裁判では被告として住民らに訴えられたが、被爆自治体として国に援護対象区域の拡大を求めてきた経緯がある。高裁判決後、上告の見送りを認めるよう国に求めていたが、厚生労働省法務省の担当者からは「上告が必要」などと伝えられていた。

 この日、首相官邸を訪れた湯崎英彦知事は、上告断念について「黒い雨を浴びた方々の長年にわたるつらい思いや不安な思い、痛みを理解していただいた。心から感謝を申し上げたい」と述べた。国は有識者らによる検討会を設け、区域の拡大を視野に検証を進めている。松井一実市長は「(黒い雨を浴びた方々が)本当によかったなと思っていただけるような方向で議論していきたい」と語った。(戸田和敬)