弱さと向き合った先の五輪連覇 大野将平が歩む「終わりのない道」

柔道

野村周平
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 東京オリンピック(五輪)の柔道男子73キロ級で金メダルを取った大野将平(29)=旭化成=は昨年2月の国際大会以来の試合だった。もちろん、新型コロナウイルスの感染拡大の影響だ。

 今年5月、海外勢との実戦感覚を取り戻そうと、ロシアに武者修行へ。ところが、検査に関する書類の不備で帰国の飛行機に乗れず、現地に5日ほど足止めされる事態に見舞われた。

 本番まで、2カ月を切っていた。「この時期に120時間も無駄にするとは……」。満足な練習を積めず、地道に鍛えてきた肉体の強さを示す数値は想定外に落ちたという。帰国後には隔離期間もある。そんなことを思い、焦り、いらだった。

「どうしようもないこと」受け入れて、前へ

 でも、大野は受け入れた。「どうしようもできないことって人生に起こる。理不尽なことは、今までもたくさん経験してきた。過酷な中でも、毎日を必死に進んでいくしかない。みんなだって、そうじゃないですか」

 2016年リオデジャネイロ五輪で金メダルを取ってから、より自分の内面と向き合うようになった。

 「若い頃は怖いものしらず。でも、経験値を積んで勝負の怖さを知った。勝ち続けるためには自分の弱さを知る必要があった」

 稽古相手を自分に見立て、どうすれば負かせるかを考え抜いた。どんな癖があるか。エンジンのかかりの遅さをどう突くか。寝技なら対抗できるのでは。己の弱点を客観視するのは気がめいる。それでも、その作業を黙々と続けた。

 だから、予期せぬトラブルに焦る自分の弱さを認識し、平静を取り戻せた。

 帰国後、もう一度自らを追い込んだ。体作りを担当する旭化成の守田誠コーチは「一度落ちた数値を取り戻すのは、心身ともきつかったと思う」。本番2日前、守田コーチに送られた体組成を示す数値は、今までで最も高くなっていた。

 東京五輪は日々の積み重ねの集大成。でも、コロナに翻弄(ほんろう)され、開催と中止で割れる社会のはざまに立った金メダリストは、違う思いも胸に秘める。

 「五輪は柔道家にとって最高の舞台かもしれないけど、五輪だけに左右される人生だったら、少し寂しい。柔道みたいに『道』がつく競技には一生、終わりがないんだから」

 バイブルがある。宮本武蔵を描いた漫画「バガボンド」(井上雄彦作、講談社)。大野はいくつもの名言をスマホにメモしているが、こんなセリフたちと自らを重ね合わせる。

 「弱さを経ない強さなんて、ないでしょう」

 「強くなりたいではなく、強くありたい」

 誰もが悩み、どうふるまうべきかに苦しんだこの1年。大野も揺れた。それでも、人間として「強くありたい」と思い続けた。その先に2連覇があった。(野村周平)