「うれしい誤算」「なぜ急に」 黒い雨訴訟、上告断念

核といのちを考える

福冨旅史、東郷隆、比嘉展玖
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 広島への原爆投下後に降った「黒い雨」による健康被害を84人の原告が訴えた訴訟は26日、急転直下、菅義偉首相が上告断念を表明し、原告全員に被爆者健康手帳を交付するよう命じた広島高裁判決が確定する見通しとなった。高齢化する原告たちは決着を歓迎し、県や広島市の関係者からは驚きの声も上がった。

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 「夢がかなった。頑張りがやっと認められた」

 原告の上岡敬子さん(88)=広島市安佐北区=は声を震わせて話した。東京五輪のテレビ中継を見ていたときにテロップが流れ、同じく原告の妹、隅谷芳子さん(81)=同市佐伯区=に急いで電話したという。

 国民学校6年の夏休み、同級生数人と安野村坪野(現・安芸太田町)の太田川のへりにいたときに被爆した。しばらくして雨が降り始め、着ていた白いシャツにはべたついた黒い線がついた。白内障に悩まされ、黒板の字が読み取れず、中学2年で学校をやめた。父には「原爆におうたと言うと結婚できん」と言われ、隠して結婚した。

 今月14日、広島高裁判決後の原告団の集会に参加した際は、「国は上告してくるだろう。死ぬまでには被爆者と認めてほしい」と話していた。この日、「うれしい誤算。支えてくれた家族や原告の仲間に感謝を伝えたい」と喜びを語った。

 広島市佐伯区の原告、沖昌子(よしこ)さん(80)は4歳の頃、旧八幡村(現・広島市佐伯区)で原爆投下後に上から雪が降るように灰が落ちてくるのを目撃。子どもの頃から病気を繰り返してきた。被爆者健康手帳が交付されることとなり、「涙が出るほどうれしい」と語った。

 厚生労働省法務省の幹部は23日に県と市の幹部と広島市内で協議し、上告するよう求めていた。ある県幹部は「非常にうれしい判断だ」と評価する一方、「国との協議はまだ続くと思っていた。なぜ急に方針転換したのだろうか」と驚きを口にした。

 広島市の幹部は、菅首相が会見すると直前に聞き、「悪い話ではないはず」と期待した。首相の発言を聞いて大きくガッツポーズしたという。「最高の望みじゃ。原告以外の(黒い雨を浴びた)人たちも救済すべきだと言ってくれたのが一番うれしかった」

 一方、菅首相は原告以外の救済範囲について具体的には言及せず、広島高裁判決について「国として受け入れがたい部分もある。談話という形で整理したい」とも発言した。この市幹部は「談話が原告以外の人たちの被爆者認定にどう影響するのだろうか」との不安もにじませた。(福冨旅史、東郷隆、比嘉展玖)

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