ボード真っ二つ、窃盗被害の過去 サーフィンで人生を変えた男の物語

サーフィン

室田賢
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 一人だけ異次元の世界にいるようだった。

 東京オリンピック(五輪)の新競技サーフィンの決勝で、ブラジル代表のイタロ・フェヘイラ(27)が圧巻の演技を披露した。

 大波だろうが、小波だろうが構わない。楽しそうに波に乗り続けた。波選びに苦しむ五十嵐カノア(23)の倍以上のスコアを記録し、男子の初代金メダリストになった。

 「歴史を作れた。みんなが歴史の一員だよ」

 試合開始直後にハプニングが起きた。

 接近する台風の影響で、波が大きくうねっていた。フェヘイラは勢いをつけて空中技を試みたが、着水に失敗。すると、サーフボードが真っ二つに折れた。

 チーム関係者は大慌てで、代わりのボードを持ってフェヘイラの元へと砂浜を走った。フェヘイラも海から砂浜に急いで上がる。ボードを受け取ると、再び海へ戻った。

 フェヘイラがハプニングに見舞われたのは、この日だけではない。

 2019年に宮崎県で開かれた世界選手権「ワールドゲームズ」。日本に向かう途中、米国でパスポートやビザが入ったリュックが盗まれた。

 来日後の領事館の面接で事情を説明し、時間はかかったが、何とかビザが下りた。そして再び、飛行機に乗って宮崎へ飛んだ。

 大会は進行中。空港では預けていたボードも手にすることなく、試合会場へ急いだ。

 空港から車で10分。会場に着いた時、フェヘイラの試合は始まり、時間は半分ほど過ぎていた。

 走って会場の柵を跳び越え、ビブスを受け取り、チームメートのボードを借りて、機内と同じ服装のまま海へとダイブした。

 会場の誰しもが終わりだと思ったが、「チャンスは少しあった」。残り少ない時間で逆転し、初戦を突破。勢いそのままに、この大会で優勝した。サーフィン界では今も語り継がれる大会になっている。

 そして、今回の五輪決勝。ボードが折れたことによる動揺は全く感じさせず、再び頂点に立った。

 初めてのサーフィンは発泡スチロールのフタだった。試合後の記者会見では、「サーフィンはみんなの人生を変えると言いたい」と話し、こう締めくくった。

 「さあ、ごはんを食べよう。おなかがすいて、ぺこぺこだよ」室田賢