「つらい時間だったけど、報われた」 永瀬貴規の2年と30分25秒

柔道

波戸健一
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 派手さはない。力感も薄い。しかし、時間の経過とともに相手のエネルギーが吸い取られていく。東京オリンピック(五輪)男子81キロ級の永瀬貴規の長所は、折れずにじわじわと攻めていくことだ。

 山場は、世界ランキング1位のマティアス・カス(ベルギー)との準決勝だった。右でも左でも組める不気味なカスと火花の散るような組み手争い。我慢比べの試合展開で、永瀬は高校時代の恩師から授けられた言葉「組み手で勝負の8割が決まる」を実践した。

 普段は試合巧者のカスの顔色が曇ったのは延長に入ってから。ついに訪れた勝機は延長2分48秒。五輪に向けてひそかに磨いた体落とし(公式記録は背負い投げ)で技あり。強化陣から「やっと出た」と声が上がった。決勝は足車で、サイード・モラエイ(モンゴル)から技ありを奪った。

 男子73キロ級で五輪2連覇を達成した大野将平が「今まで組み合った中で最強の男」と認める。井上康生監督が東京五輪に向けて「日本のエース」と期待した矢先、2017年世界選手権で右ひざを負傷。大けがだと信じたくなくて何軒も病院を回ったが、結果は手術を要する重傷だった。

 復帰まで1年、自信を取り戻すまでさらに1年、我慢と辛抱の日々だった。

 しかし、同時に挫折と経験が永瀬を強くした。

 「うまくいかないことしかなかった。つらい時間だったけど、報われた」。この日は、5試合のうち4試合が延長戦。計30分25秒の戦いぶりに、ここまでの道のりが凝縮していた。(波戸健一)