飲酒運転の悲劇をどう根絶 八街事故から1カ月

聞き手・多田晃子
[PR]

 千葉県八街市飲酒運転のトラックが下校中の小学生の列に突っ込み、児童5人が死傷した事故から28日で1カ月。運転手の梅沢洋被告(60)が自動車運転死傷処罰法違反(危険運転致死傷)の罪で起訴された点でも注目を集めた。飲酒運転による悲劇が後を絶たない中、法制度や予防策はどうあるべきなのか。交通犯罪に詳しい、元同志社大教授の川本哲郎氏に聞いた。

     ◇

 ――今後の裁判のポイントをどう見ていますか。

 「千葉地検の判断は妥当だ。ただ、適用した法律の規定では、犯罪の成立範囲を限定するために①正常な運転に支障が生じる恐れがある状態で②アルコールの影響により正常な運転が困難な状態に陥り③その状態で人を死傷させたという条件が設けられており、それらを立証する必要がある」

 「今回検出されたアルコールが、基準値の0・15ミリグラムをわずかに超える程度だったことなどから、裁判では故意と因果関係の立証に注目したい」

 ――事故を巡る判断の中で見えてきた問題点や課題などはありますか。

 「故意や結果との因果関係が証明出来なければ過失運転致死傷罪になるなど、行為が限定されているのは問題。認識の条件を緩和して、危険運転と認定出来る対象行為を広げられるような法改正を検討すべきだ」

「そのためには、悪質や無謀な運転による人身事故の場合は、判断基準として一定の速度や飲酒量を設定すべきだ。また、運転中にスマートフォンなどを使う『ながら運転』などを『悪質無謀な』ないしは『常軌を逸した』運転というように定義を広げる形で、条件を緩和する必要がある」

 ――そのような法改正の実現が近い将来難しい場合、方策はありますか。

 「現状では、法定刑の上限は過失運転致死傷罪が7年、危険運転致死傷罪が20年と、差が大きすぎるのが問題なので、次善の策として、故意と過失の中間にあたる、無謀な運転による『自動車運転重過失致死傷罪』の制定を提案したい。上限を12年にするなどすれば、被害者や遺族の思いが少しは報われるのではないだろうか」

 ――飲酒運転を根絶するには何が有効でしょうか。

 「飲酒運転は道路交通法の刑罰の引き上げや、危険運転致死傷罪の制定によって減少してきたが、根絶にはほど遠い状態だ。今回の運転手は『アルコール使用障害』の疑いがあると思う。福岡県和歌山県では飲酒運転撲滅(根絶)条例を制定し、飲酒運転をした人に受診などを義務づけた。加えて海外の事例と同様、呼気からアルコールを検出するとエンジンがかからないようにする『アルコールインターロック』装置の導入を検討するなど、予防手段も図るべきだ」(聞き手・多田晃子)

     ◇

 起訴状によると、被告は6月28日午後2時55分ごろ、千葉市内のパーキングエリアで、停車中のトラック内で飲んだ酒の影響で、運転に支障が生じる恐れがある状態で運転を再開。同3時25分ごろ、八街市内の道路を時速約56キロで進行中、アルコールの影響で居眠りし、トラックを左前方の路外にあった電柱に衝突させ、左前方から歩いてきた児童5人をはねるなどして、死傷させたとされる。

 適用したのは自動車運転死傷処罰法の3条。アルコールまたは薬物の影響により「正常な運転に支障が生じる恐れがある状態」で運転し、これらの影響により「正常な運転が困難な状態」で人を死傷させた場合の処罰を定めている。

 千葉地検は、事故の30分ほど前の飲酒状況から「正常な運転に支障が生じる恐れがある状態で運転していた」と認定。過労などではなく、アルコールの影響で居眠り運転をし「正常な運転が困難な状態だった」と判断した。衝突時の損傷具合や速度などから居眠りとした。居眠り運転は「正常な運転が出来ない典型例」とし、「供述内容や全証拠からアルコールによる居眠りと判断した」としている。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

今すぐ登録(1カ月間無料)ログインする

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません